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 「経済安全保障」がメディア上で頻繁に登場するようになった。特に注目を集めたのは、LINEの個人情報管理を巡る問題に対する最終報告書の指摘だ。親会社のZホールディングスが設置した外部有識者による特別委員会が2021年10月に公表したもので、「(LINEは)経済安全保障への適切な配慮ができていなかった」と指摘した。

 LINEの問題は、国内利用者のデータが中国の業務委託先で閲覧できる状態だったことなどだ。従来なら、オフショア拠点における「個人情報の不適切な取り扱い」といったレベルの問題と認識されただろう。それが「経済安全保障への配慮の欠如」と指摘されたわけだから穏やかではない。

 では、経済安全保障とは何なのか。必ずしも明確な定義がないのが悩ましいところで、「経済分野における国家安全保障」とでも理解するしかない。国家安全保障は自然災害への備えも含むが、主に他国の脅威から自国を守るための枠組みを意味する。経済安全保障もその延長線上にあるわけだ。そして今、最も大きな脅威となっているのが中国に他ならない。

 しかも経済安全保障の範囲はどんどん拡大している。従来なら軍事転用可能な技術の流出防止や、電力会社などの社会インフラ企業に対するサイバー攻撃への防御などに限定されていたが、今ではLINE問題のようにオフショア活用でのリスクへの対処も含まれるようになった。自民党の政策集を見ると、経済安全保障の対象として半導体、データセンター、量子技術、AI(人工知能)、HPC(ハイパフォーマンス・コンピューティング)などが並ぶ。

経済安全保障が成長戦略に

 企業としては当然、経済安全保障に留意してビジネスを展開しなければならない。ただ企業にとって悩ましいのは、経済安全保障は時と共に「揺れ動く」ということだ。その時々の外交や政治状況などによって、対象範囲は変わるし、リスクの強度も変わる。しかもそこには国家、つまり政治家や官僚の判断や意思が関わる。