全1472文字
PR

 経済や社会のデジタル化に対応し、企業や行政機関がDX(デジタル変革)を推進するために、ビジネスパーソンをいかに「デジタル人材」へと成長させるか――。今、多くの企業が取り組み始めたリスキリングや、よく似た概念として注目されるリカレント教育の眼目は、これに他ならない。

 もちろん、どちらも平たく言えば「学び直し」であり、必ずしもデジタルのスキルや知識の習得だけを意味するものではない。ただ、デジタル化に出遅れた日本にとって、DXを担う人材の育成は喫緊の課題。リスキリングやリカレント教育がデジタルに焦点を当てるのは当然のことである。

 よい機会なので、ユーザー企業や行政機関、そしてITベンダーに真剣に考えてもらいたいことを述べておく。それは、ユーザー企業や行政機関のシステム開発や保守運用を担っている、ITベンダーの技術者に対するリスキリングなどの機会の提供である。

 まず前提となる事実として、これまで日本の企業や行政機関の基幹系システムなどの多くは、非効率極まりない形で開発され、保守運用されてきた。企業は欧米や新興国ならパッケージソフトウエアやクラウドを使えば済むような機能であっても、独自システムとしてつくり込んでいる。行政機関でも官公庁ごと、地方自治体ごとに独自仕様のシステムが林立している状態だ。

 そうした独自システムの大半は、ITベンダーの技術者が開発し保守運用も担っている。システム開発では、IT業界の多重下請け構造を使って多くの技術者が集められる。いわゆる人海戦術だ。そして保守運用の段階となっても、元請け、あるいは下請けのITベンダーの技術者が客先に居残り、システムの面倒を見続けている。

 これは技術者という人的リソースの途方もない無駄遣いに他ならない。今は空前の技術者不足であり、ITの知識がほとんどない人にまでリスキリングして、デジタル人材にしようとしているのに、その一方で技術者の無駄遣いがまかり通っている。ユーザー企業や行政機関はシステムがきちんと動き、ITベンダーも利益が上がればそれでよいのかもしれないが、日本全体で見れば大きな損失である。