経営者や財務担当役員がこれまでのDX(デジタル変革)の取り組みを説明するのが、決算発表の時期の「風物詩」になって久しい。DXは脱炭素の取り組みと共に株主や投資家の関心事だから、経営者らが決算発表に合わせて「我が社のDX」を熱く語るのは、当然と言えば当然である。だが、そこで語られる「DXの取り組み」には違和感を覚えることが多い。
なぜ違和感を覚えるかと言うと、相変わらず「変革なきデジタル変革」の話を聞かされるからだ。例えばAI(人工知能)やIoT(インターネット・オブ・シングズ)などを活用するPoC(概念実証)の試みや、スマートフォンアプリなどによる顧客サービスの拡充といった類いだ。大企業なら多数の取り組みをこれでもかといった具合に紹介するケースも多い。
加えて最近の「流行」は、いわゆるデジタル人材、DX人材の人数を表明することだ。中途採用したエンジニアやデータサイエンティストだけでなく、社員にプログラミングやデータ分析などを教育し、デジタル人材としてその人数を公表する。中には「全社員をデジタル人材にする」と宣言する企業もあるほどだ。
決算発表では株主や投資家を強く意識するから、分かりやすいAIなどの取り組みや、デジタル人材をどれだけ育成したかといった点を訴求するのは、理解できないことではない。ただ、こうした取り組みが「我が社のDX」の全てだと言われると、それは違うと言わざるを得ない。
デジタルの寄せ集めはDXではない
例えばAIなどを活用したデジタルサービスの創出は、それが既存のビジネス構造の延長線上にある限り、DXとは言えない。むしろ「デジタル時代の新商品開発」と言ったほうがよい。企業は時代時代に合わせて商品を開発してきたわけだが、これからの時代はAIやスマホ、クラウドなども「材料、部品」として使い、新商品(デジタルサービス)をつくっていこうという意味だ。もちろんデジタルを活用した商品開発は不可欠だが、それだけでは変革と言えないのは明らかだ。