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 こんな笑い話を聞いたことがある。ある企業でIT部長が経営者に、老朽化した基幹系システムの刷新の必要性を訴えようとした。「我が社のレガシーである基幹系システムを……」。すると経営者は「うちのシステムはそんなに素晴らしいのか。それなら大切にしないといけないな」――。

 笑い話と書いたが、実話なので笑えない話と言ったほうがよいだろうか。確かに、レガシーを悪い意味で使うのは、日本ではIT関係者だけかもしれない。レガシーシステムと言えば「時代後れとなった技術で構築されている老朽システム」といった意味合いだ。一方、世間一般では「東京オリンピックのレガシー」という言葉があるように「受け継ぐべき遺産」といった良い意味に受け取られている。

 レガシー(legacy)という言葉の意味を調べると、「(良くも悪くも)受け継いだもの」といったニュアンスなので、どちらの使い方も正しい。さらに言えば、同じく遺産を意味するヘリテージ(heritage)と異なり、金銭的な意味合いがある。要は「受け継いだ資産や負債」である。そのようなわけなので、老朽化して技術的負債を背負った基幹系システムは、まさにレガシーと呼ぶのにふさわしい。

 そんなレガシーシステムをDX(デジタル変革)の一環として刷新しようという動きが大企業の間で出てきたようだ。「昨年あたりまではDX案件と言えばデジタルサービスの創出といったフロント系のものが大半だったが、ここに来てDXに絡めて基幹系システムを刷新しようという案件が増えてきた。基幹系を刷新しない限りDXを進められないことに気付いたのだろう」と大手ITベンダーの経営者は指摘する。

経営者とレガシーで議論を

 これはまさに、経済産業省が2018年に公表した「DXレポート」で指摘した「2025年の崖」問題に対応する動きといえる。企業が老朽化した基幹系システムなどを放置すると、2025年までに多くの企業で破局が訪れ、DXどころではなくなる。そんな警鐘を鳴らしたのが2025年の崖だった。