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 「これは駄目だな」と思っているIT用語がある。「モダナイゼーション」だ。直訳すれば「現代化」だが、IT業界では老朽化した基幹系システムなどを全面的に刷新することを意味する。最新のITインフラなどを売り込みたいITベンダーにとっては、マーケティング上の重要な用語となっている。

 なぜ駄目かと言うと、この言葉は人を動かす力を感じさせないからだ。基幹系システムの刷新では、経営者が必要性や重要性を理解し、自ら主導することが不可欠だ。だからIT部門やITベンダーが提案する際には、経営者に響く言葉が要る。何をどうしたいのかよく分からず、間延びした語感のモダナイゼーションが、その役割を果たせるとはとても思えないのだ。

 他にも駄目な言葉がある。十数年前から必要性が叫ばれていた「ビジネストランスフォーメーション」で、当初は略して「BT」と呼ばれた。こちらも言葉に力がないためか、はやり言葉にならず、BTの必要性、重要性が理解されることはなかった。

 だが、BTとは「ITを活用したビジネス構造の変革」を目指す取り組みを指す。お気づきと思うが、DX(デジタル変革)、つまりデジタルトランスフォーメーションと本質的に同じなのだ。もし十数年前に多くの企業、特に経営者がBT(=DX)の必要性、重要性に気づいていたら、世界で急速に進むデジタル革命に、日本がここまで乗り遅れることはなかったはずである。

 その点、DXはセンスが良い。「ビジネス」を「デジタル」に変えて、略語は「T」ではなく「X」を使った。英語の接頭語の「trans」は「超えて」「横切って」といった意味を与え、たびたび「X」と略す。つまりDigital TransformationはDigital X-formation。だから略語をDXとできるわけだ。

 事実上、BTがDXに言い換えられたことで、駄目な言葉は「イケてる」言葉となった。デジタル変革という方向性が明確になり、略語にXを使ったことで語感は力強くシャープになった。もちろん表現上の問題ではあるが、言葉の選び方一つで訴求力が大きく変わるのも事実だ。DXは経営者の心にも刺さり、今や企業の経営戦略の中核概念の1つとなった。