日本のIT業界はいつになったらまっとうな姿に変わるのか。あるいは本当に変わり得るのか――。
「ご用聞き」「人月商売」「多重下請け構造」「労働集約型産業」などと日本のIT業界の問題が指摘されて久しい。NTTデータや富士通といったシステムインテグレーター(SIer)がユーザー企業の個別の要望を聞いて、人月工数をベースにした料金で、多数の下請けITベンダーを使ってシステム開発や保守運用を手掛ける。いわゆる人月商売が日本のIT業界の主力ビジネスとなって30年の歳月が流れた。
その間、「人月商売からの脱却」「多重下請け構造の打破」などが叫ばれたが、ユーザー企業のニーズが強いこともあり、日本のIT業界は世界的にも特異なビジネスを延々と続けてきたのだ。偽装請負や長時間労働、不当な買いたたきなど「IT業界の闇」と称される悪弊も温存されてきた。
そのためか、ITベンダーの関係者の中には「これから先も人月商売は変わりようがない」とシニカルな予測をする人は多い。しかし「IT業界は変わる」と私は断言する。より正確に言えば、SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)などを提供するテック企業が、人月商売をなりわいにするITベンダーに取って代わるのがメインシナリオだ。2023年には、多くのIT関係者がその潮目の変化を実感するはずだ。
実は、5年ほど前にスタートアップ企業の人から「頼むから我々と彼らを同じIT業界としてひとくくりにしないでほしい。『本物のIT業界』のイメージが悪くなり迷惑だ」という「抗議」を受けたことがある。「本物のIT業界」とは、その人が所属するSaaSベンダーなどの業界のことであり、「彼ら」とは人月商売をなりわいとするITベンダーのことだ。長時間労働や偽装請負などが横行する業界と誤認されてはかなわないというわけだ。
私はこの抗議をもっともなことだと思い、それ以来、既存のIT業界のことを書く際には、必ず「人月商売のIT業界」と記すようにしている。その文脈で言えば「2023年にはテック企業などの本物のIT業界が広く認知され、人月商売のIT業界は日陰の存在になっていく」ということだ。