私事になるが、最近初めて電子契約サービスを利用する機会があった。高齢の両親が転居することになり、私が両親に代わって新居の賃貸契約を結ぶことになった。その際、商談は全くの非対面、オンラインでのやり取りの末に、米ドキュサインの電子契約サービスによって契約を締結した。
電子署名を打つ前に契約書を読んでいて、ハッと気づいたことがある。今回は非対面での契約に対する不安もあり、契約書を隅々まで精読し、不利な条項はないかなどを確認した。ところが、これまでは契約書を精読したことが一度もなかったのだ。
読者はどうだろうか。自動車や住宅などの高額商品を購入する際に、契約書をきちんと読み込んだであろうか。私はそんなことをした記憶がない。非対面の電子契約と違い、売り手への信頼感や対面での商談の安心感からか、担当者の説明を聞くだけで契約書にハンコをついてきた。契約社会の米国の人たちに聞かれたらあきれられてしまうだろうが、日本人なら多くの人に思い当たる節があるのではと思う。
契約書をきちんと読まない、あるいは契約書を軽視するという傾向は、何も個人に限った話ではない。
例えば、全市民の個人情報が入ったUSBメモリーを一時紛失するという兵庫県尼崎市の事件でも、契約書の軽視が著しかった。再委託する際は尼崎市の承認を得るという契約だったにもかかわらず、BIPROGY(旧日本ユニシス)はそれを無視した。しかも、USBメモリーを紛失したのが再々委託先の技術者だったため、大きな問題となった。
契約書は「リスクヘッジの手段」
2022年12月12日にBIPROGYが公表した調査報告書によると、契約業務を担っているのが営業部門のため、現場の技術者らは契約の内容を知らず、再委託には尼崎市の承認が必要なことも認識していなかったという。そのために、契約違反を犯していることに全く無頓着だったわけだ。