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 最近、ひそかに期待していることがある。「DX(デジタル変革)で生産性向上を図り、社員の給料を上げよう。それが我が社のためだし、日本のためだ」。そんな話をする経営者がそろそろ出てこないかという期待だ。

 今、企業にとって大きな課題が賃上げだ。このところの物価高で実質賃金は目減りしており、賃上げは従業員の生活防衛やモチベーションの維持に不可欠と言ってよい。さらに「失われた30年」と呼ぶ経済の長期低迷もあり、賃金水準は他の先進国に比べ見劣りするものになってしまったから、各企業の努力で再び豊かさを実感できるレベルに引き上げていく必要がある。

 労働組合のみならず政府や経済団体も、各企業に賃上げに向けての努力を促している。そんなわけなので「DXで生産性向上を図り賃金もアップ」というシナリオは筋が良い。賃金アップが期待できるなら、従業員もDXに積極的に参画することだろう。

 もちろん、DXの推進を通じて賃上げを実現するのはたやすくはない。王道は高額で売れる付加価値の高いデジタルサービスなどを生み出すことだが、ハードルは高い。多くの企業が新サービスの創出に向けてPoC(概念実証)に取り組んでいるが、大半は失敗に終わっている。たとえ有望な候補が見つかっても企業の収益力向上に寄与するようになるには時間がかかる。

 生産性の向上を図るもう1つの手段は、基幹系システムなどの刷新や新システムの導入を通じて既存業務の効率化に取り組むことだ。一見、こちらのアプローチのほうが容易に思われるが、日本企業には難度が極めて高い。実際、DXの一環として取り組まれる前から、業務の効率化はIT投資の主要目的だったが、投資に見合う成果を上げられずに終わるケースが多かった。