全2809文字
PR

 自動運転の技術は自動車だけのものではない。ロボットに自律走行の機能を組み込めば、掃除や荷物の運搬など、これまで人手に頼っていた作業の効率化につながる。先進企業の間では既にオフィスや商業施設で自動運転技術を使い、人手不足対策や生産性向上に生かす動きが広がっている。

オフィスや商業施設で自動運転技術を備えたロボットの活用が進む
オフィスや商業施設で自動運転技術を備えたロボットの活用が進む
(写真提供:三菱地所)
[画像のクリックで拡大表示]

 三菱地所は2019年5月に東京・丸の内エリアで、自動運搬ロボットを活用してビル間で荷物を運ぶ実証実験を1週間にわたり手掛けた。日本初上陸となる米ロボット開発企業マーブル(Marble)製の自動運搬ロボットを使い、隣接する「大手門タワー・JXビル」と「大手町パークビル」のビル間を自律走行で移動させ、荷物を届ける実験だ。

三菱地所の渋谷一太郎DX推進部統括
三菱地所の渋谷一太郎DX推進部統括
[画像のクリックで拡大表示]

 「当社が管理する様々な施設でロボットをどう活用するかを検証し、ひいては次世代物流の在り方を模索する狙いがある」。三菱地所の渋谷一太郎DX推進部統括はこう語る。

 同社は2019年4月にデジタル活用の強化を目的にした新組織「DX推進部」を立ち上げるなど、将来の人手不足社会の到来を見据え、街やオフィスでロボットを活用する実証実験を積極的に手掛け、段階的に導入を進めている。

自動運搬ロボットがビル間移動し荷物を届ける

 その取り組みの中の1つが今回の実験のような、自動運転技術を生かした「モノの運搬」だ。

 三菱地所が導入したマーブル製ロボットの最大の特徴は、屋内と屋外を問わずシームレスに自律走行できる点。あらかじめ学習した地図情報からルートを自動で決めて走行する。

 使い方はこうだ。まずリモートコントローラーでロボットを操作し、地図情報を作りたいルートを走行させる。このときロボットは複数のカメラと、レーザーで障害物などの情報を把握するLiDARセンサーを使い、自身でマップをつくり上げる。

 渋谷氏は「1回走らせただけで道を学習し、ほぼ問題なく自律走行できるようになった」と同ロボットを絶賛する。LiDARセンサーの有効範囲は30メートル近くに達するといい、広い敷地であってもマッピングが可能。自動ドアなども、開いた状態と閉じた状態を画像で学習させるだけで、すぐに通過できるようになったという。

自動運転技術は自動ドアにも対応する
自動運転技術は自動ドアにも対応する
(写真提供:三菱地所)
[画像のクリックで拡大表示]

 これまでの自動運搬ロボットは屋外走行を前提としており、GPS(全地球測位システム)を利用するものが大半だった。そのため、GPSを利用しづらい屋内での自律走行は難度が高いとされていた。

 マーブル製ロボットはGPSではなく自身で学習したマップ情報で走行。さらに「マッピングの精度が高い」(渋谷氏)ため、屋内と屋外の両方を通るようなルートでも自律走行が可能だという。走行中に障害物を避けたり、人が飛び出した際に瞬時に停止し迂回したりもできる。

 今回の実証実験が想定したケースは、テラスからスマートフォンで食事を頼んだ注文者のもとに自動運搬ロボットが荷物を届ける、というもの。ビル間を移動し300メートルほどの距離を5分かけて走行。実証実験は全て問題なく完了した。

レストランで配送用の荷物を受け取る
レストランで配送用の荷物を受け取る
(写真提供:三菱地所)
[画像のクリックで拡大表示]
人や障害物を避けながらビル間を移動
人や障害物を避けながらビル間を移動
(写真提供:三菱地所)
[画像のクリックで拡大表示]
注文者に荷物を受け渡し
注文者に荷物を受け渡し
(写真提供:三菱地所)
[画像のクリックで拡大表示]

 渋谷氏は「自動運転技術は既に荷物の運搬で活用できるレベルにある」と語る。ただ一方で、現時点では道路交通法が公道の自律走行を規制していたり、建物もロボットと共存する前提にないため道幅が十分でなかったりと、「テクノロジー以前の課題が多いのも事実」(渋谷氏)。

 今後本格的にロボットを活用するのであれば、「ロボットとの共存を前提に建物を設計することが必要になってくる」(同)と指摘する。今回の実験はビル1階からビル1階への移動だったが、今後はエレベーター会社と連携し、ロボットがエレベーターと通信して人と同じように別の階へ移動できるような仕組みづくりも研究していきたいと意気込む。

 「今後も様々な施設で実証実験を重ね、安全性などの問題をクリアにしていく計画だ。空港や商業施設など、当社が運営する施設で1年以内にマーブル製ロボットを本格導入したい」(渋谷氏)とする。

相鉄グループは商業施設の「清掃」で自動運転技術を活用

 店の営業時間が終わるとロボットが自律走行し店内の床を清掃、翌日にはピカピカの床で客をお出迎え――。このような世界の実現が現実的になってきた。

ロボットが自動で床を清掃する
ロボットが自動で床を清掃する
(写真提供:相鉄企業)
[画像のクリックで拡大表示]

 相鉄グループでビルメンテナンスを手掛ける相鉄企業は2019年6月、横浜駅に直結する商業施設「相鉄ジョイナス」に、カナダのアヴィドボッツ(Avidbots)製の自動清掃ロボット「Neo(ネオ)」を導入した。Neoは自動運転技術を備えたロボットで、フロアのマップを学習させると自動で障害物を避けながら床を清掃する。

相鉄企業の平井直幸横浜営業部営業三課長
相鉄企業の平井直幸横浜営業部営業三課長
[画像のクリックで拡大表示]

 相鉄企業の平井直幸横浜営業部営業三課長は「Neoを使うことで人手不足を補う狙いがある」と導入の理由を語る。相鉄ジョイナスでは、営業終了後の午後11時~翌午前5時までの時間帯で清掃し、地下1階~2階の計3フロアの共用通路を同ロボットが清掃している。ロボットは約4500平方メートルの床を4時間ほどで掃除するという。

専任のエンジニアは必要ない

 「専門のエンジニアがいなくても、ロボットには簡単に清掃範囲を学習させられる」と平井氏は話す。初期設定時は、Neoを人力で押して掃除させたい範囲の通路を走行させる。右回りと左回りで1周ずつ壁沿いを走らせることで、死角をつくらないようにするのだという。Neoはその際に有効範囲約20メートルのレーザーを照射して周辺の構造を把握し、マップとして学習する。

 学習後はLiDARセンサーや3Dカメラなど各種センサーを利用し、内部に持つマップ情報と自己位置情報に基づき清掃する。人や障害物なども自動で検知し迂回可能だ。

 人が押したルートを単純になぞって走行する掃除ロボットもあるが、Neoはマップをもとに自動でルートを設計する。フロアのレイアウトが変化しても、マップを自動で作り直してルートを再設計してくれる。

Neoのリポート。青色部分が清掃済みの部分で、作業者はリポートを基に清掃が足りない箇所を清掃する
Neoのリポート。青色部分が清掃済みの部分で、作業者はリポートを基に清掃が足りない箇所を清掃する
(写真提供:相鉄企業)
[画像のクリックで拡大表示]

 Neoの清掃状況はパソコンやスマートフォンなどから確認可能で、清掃が終わった範囲をマップで見たり、Neoに搭載されたカメラの映像を見たりできる。清掃後にはリポートが作成され、「作業者はそのリポートを見て清掃が足りていない箇所を手作業で掃除する」(平井氏)。Neo1台につき作業員1人分を補えるという。

 同社は他の商業施設でも掃除用のロボットを導入するなど、自動運転技術を使った人手不足対策に積極的に乗り出している。一方で、他の施設で日中にロボットを稼働させると、ロボットが珍しいために子供たちが上に乗ったりいたずらしたりするケースがあるといい、安全を確保できないのが課題という。そのため相鉄ジョイナスでは閉店後の作業に利用を限定している。

 「ロボットの自動運転はかなり高いレベルにある。安全性の問題をクリアし、利用者が増えて価格が下がれば、ロボットの利用が一気に広がるのではないか」と平井氏は話す。相鉄企業は今後も掃除ロボットの効果を検証しつつ、段階的に活用範囲を広げる計画だ。