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2019年7月に完了したみずほ銀行のシステム統合。20年にも及ぶその苦闘を「日経コンピュータ」の記事で振り返る。2015年12月10日号はみずほ銀行が開発する新勘定系システムが3構造SOA(サービス指向アーキテクチャー)を採用することなどを報じた。

 「今後30年の礎」「新生みずほの象徴」――。みずほ銀行がこのように位置付ける次期勘定系システムの開発が佳境に入っている(写真)。本誌取材により、総投資額3000億円以上、ピーク時要員8000人超に上る巨大プロジェクトの全貌が見えてきた。

写真 みずほ銀行本店が入居するビルの外観(左)と同行の店舗(右)
写真 みずほ銀行本店が入居するビルの外観(左)と同行の店舗(右)
総投資額3000億円以上の巨大プロジェクトに挑む
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 みずほ銀は現在、結合テストの後半に差し掛かっている。同テストの前半では預金、為替といった業務単位ごとのコンポーネントが内部できちんと処理されているか確かめた。2015年夏ごろに終え、プログラムのモジュール同士が正しく連携するかを調べる後半の作業に入った段階だ。

 2016年4月にも総合テストに進む見通し。システム開発そのものは2016年12月に完了の予定。ただし、その後ただちにシステム移行作業を進めるわけではない。2015年11月20日に公表した中間期決算説明会資料では、開発完了後の最終点検として利用部門による確認作業工程を追加した。万難を排しておきたい思いがあるようだ。

 みずほ銀は、テスト工程で通常は実施しない三つの工夫を盛り込んでいる。致命的な問題箇所やバグなどをできる限り早期に発見し、手戻り作業が多発してスケジュールに遅延が生じる事態を避けるためだ。

 まず後半の結合テストを迎えるに当たり、約1カ月間のプレ工程を追加した。代表的な取引処理などをピックアップし、一通りのテストを行う。

 さらに、顧客などと実施する接続テストの対象範囲を広げた。通常は外部インタフェースやデータ形式の変更箇所だけを調べるが、設計上は変更のない処理についても念のためにテストを実施するという。

 例えば利用部門によるユーザー受け入れテストも行う。特殊な事務処理に関する項目では、本部の利用部門だけでなく事務センターや大型支店に所属するメンバーも加わってもらい、“机上“で確認を行う。既に着手済みでプロジェクトの最後まで確認作業を続ける予定だという。

SOAを全面的に採用

 みずほ銀が慎重を期するのはある意味当然だ。まず今回、旧みずほ銀行(BK)、旧みずほコーポレート銀行(CB)、みずほ信託銀行(TB)の三つの勘定系システムを統合し、新システムへ全面的に移管する。統合と刷新を同時にやるのは異例のことである。

 合併などで銀行が勘定系システムを統合する場合、どちらかの銀行が採用するシステムに「片寄せ」するのが常道だ。三菱東京UFJ銀行は旧東京三菱銀行が使っていた勘定系システムに、三井住友銀行も旧住友銀行に片寄せしている(図1)。

図1 大手銀行の勘定系システムの変遷
図1 大手銀行の勘定系システムの変遷
常道の「片寄せ」は選ばず、統合・刷新を目指す
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 おまけに次期勘定系システムでは、「みずほSOA」と呼ぶSOA(サービス指向アーキテクチャー)を全面的に採用する。これはメガバンクの勘定系システムとしては初の試みだ。

 あえて大胆な挑戦に踏み出したのは2011年の大規模障害があったから。システムを構成しているアプリケーション同士が複雑に絡み合う勘定系システムの全体像を把握しきれないまま運用していたことが一因だった。

30年使えるアーキテクチャー

 「最初に描いた基本的なアーキテクチャーは決して崩さない。協力会社を含めた延べ1万人の関係者にこの思想を徹底させてきた」。みずほフィナンシャルグループ(FG)の加藤朝史システム推進部部長は、初志貫徹でプロジェクトを最後までやり遂げることに自信を示す。

 現在の勘定系システム「STEPS」は、1988年から四半世紀にわたり機能を追加し続けてきた。機能ごとに明確に分離するのが難しく、新しい金融商品を追加するにしても障害発生時に原因を切り分けるにしても、その都度開発者は影響範囲がシステム全般に広がる可能性を加味しなければならなかった。機動的な対応は取りづらい。

 みずほ銀はSOAの採用で、アプリ同士の「疎結合化」を図る。機能の追加・変更や障害時には特定のアプリとだけ向き合えばよくなり、迅速に対応しやすくなるわけだ。

 プロジェクトをけん引するみずほ情報総研(IR)の勝又智之次期システム構築PTプロジェクトマネジャーは、SOA採用に至った経緯を明かす。「我々が目指すのは長く使えるシステム。ハードは10年で更改すればいいが、アーキテクチャーは20年、30年と大きな変更を必要としない形にしなければならない」。

 みずほ銀は、新商品・新サービスに掛かる開発期間やコストは、「現行システムに比べて、約35%の削減を目指す」と見積もる。万が一障害が起こったとしても、影響範囲を局所化でき全体としてシステムの安定性が高まるとの期待も寄せる。

 「みずほSOA」では、システムの論理構成を「アプリケーション・フロントエンド層」「サービス層」「エンタープライズ・サービス・バス(ESB)層」の3階層に分け、各層をサービス単位でつなぐ形をとる(図2)。

図2 みずほ銀行が構築する次期勘定系システムの構成
図2 みずほ銀行が構築する次期勘定系システムの構成
3階層構造のSOA採用で「サービス」を改修をしやすく
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「3階層構造」の詳細が明らかに

 それぞれの層で何を行うか説明しよう。アプリケーション・フロントエンド層には、営業店端末を収容する「行内端末システム」、クレジットカード決済インフラ「CAFIS(キャフィス)」などとつなぐ「外部接続システム」といったチャネル系システムが属する。チャネルごとに生じる処理の差異を吸収する役割などを負う。

 サービス層は業務処理の実行を担う部分だ。勘定系システムの中核部分に当たり、「流動性預金」、「与信」、「外国為替」など、銀行が手がけている合計11の業務・機能別にコンポーネント化している。

 最後のESB層はアプリケーション・フロントエンド層とサービス層の中継役になる。2013年に本番稼働させた「業務共通基盤」が主にハブ機能を担う。

 三つの階層間は、アプリの処理内容を記述した「サービス」でつながる仕組みだ。アプリケーション・フロントエンド層とESB層は約3000の「取引サービス」で結ばれ、ESB層とサービス層も約3000の「商品サービス」でつながる。

 SOAでは業務処理ごとに「サービス」を定義してあるので、新しい金融商品を開発する際もサービスが再利用しやすく、修正箇所も少なく済む。アプリケーション・フロントエンド層でチャネルの差異を吸収させるため、ATMや営業店端末といったチャネルごとに新商品を扱えるように改修する必要もなくなる。PMOに品質管理の専門チーム

 現在のプロジェクト要員数は、ピーク時よりも1000人程度少なくなっているが、それでも約7000人という大所帯が残る。巨大プロジェクトを着実に推進するために、組織作りにも工夫を凝らす。

 プロジェクトの進捗管理などを担う組織として、PMO(プロジェクト・マネジメント・オフィス)を設置。実際に開発を手がける実働部隊はその下にぶら下がる形をとる。実働部隊は主に6つの開発チームで構成している(図3)。それぞれは今回の統合・刷新プロジェクトをけん引するみずほ情報総研の事業部がベースだ。

図3 次期勘定系システムのプロジェクト体制
図3 次期勘定系システムのプロジェクト体制
「QMD」「技術アドバイザリーデスク」など品質管理体制も重視
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 注目すべきは、PMO内に設けた「QMD(クオリティ・マネジメント・デスク)」と呼ばれる品質管理の専門部隊だ。みずほ銀はテスト工程に入ったタイミングでQMDを発足し、現在約70人が活動中。「品質管理部門は銀行、IR、各ITベンダーそれぞれが持つ。ただ開発に直接携わる人間による、現場目線での品質チェックも欠かせないと考えた」と加藤部長は語る。

 QMDは開発現場とコミュニケーションをとりながら、品質やスケジュールの妥当性を確認する。品質を高めるために必要な現場支援や指導も担う。プロジェクトの現場は出身企業も経験も異なる開発者たちで混成しているため、一貫した品質担保を徹底させる狙いがある。

 もう一つ特徴的なのが、諮問機関に当たる「技術アドバイザリーデスク」という会議体を設けた点である。

 みずほ銀の次期勘定系システムの開発プロジェクトは富士通、日立製作所、日本IBM、NTTデータが関わるマルチベンダーの体制を採っている。ベンダーが増えれば増えるほど、プロジェクトの運営は難しくなる。

 そこで、みずほ関係者とベンダー4社の有識者で構成する会議体を用意することを決めた。開発現場が解決しきれない課題に対して、ベンダーの枠組みを超えて助言できるようにしたのである。設計品質が試されるのはこれから

 「SOAを採用した新システムの真価が試されるのは、テスト工程に入ってから」と大手ITベンダーの幹部は口にする。アプリケーションを適切に切り分けてコンポーネント化を設計できたかどうかは、テスト工程で明らかになる。

 テストが足りなかったばかりに後に思わぬトラブルが生じれば、巨額を投じて開発した新システムが元も子もなくなってしまう。次期勘定系システムは今後約30年にわたって、巨大銀行の業務の根幹を綿々と担い続けていく重要な存在。2度と大規模障害を起こしてはならないだけに、なおさらみずほ銀には慎重さが求められる。念入りなテストを徹底的にやり切れるかが問われている。