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新機能でユーザー拡大を狙う

 歌声合成ソフトウエアとして先駆けといえるのが、ヤマハが2004年から提供する「VOCALOID」シリーズだ注3)

注3)VOCALOIDは、統計モデルを用いた歌声合成エンジンではなく、人の歌声を収録した音のデータベースから切り出した波形をつなぎ合わせる、波形接続型の歌声合成エンジンを用いる。生成した歌声に対して、ユーザーがパラメーターを変更して「調声(調教)」することで、音の強弱やブレスの位置、ビブラートなど歌声独特の表現を加えていく。

 同社は、2018年7月にVOCALOIDシリーズの最新版「VOCALOID5」を発売した。従来製品の「VOCALOID4」の発売から約4年ぶりの新製品となる。「今後はボカロ以外の普通の音楽でも使えるようなツールにして、海外にも広く展開していきたい」(ヤマハ 楽器事業本部電子楽器事業部電子楽器マーケティング&セールスグループ主事の小山雅寛氏)。VOCALOID5では、ターゲットユーザーを拡大し、初めて使用するユーザーや海外ユーザーが使いやすいようにと大幅な改良を施した。

ユーザー拡大に向けて、エディターの使いやすさと自由度を高めた
ユーザー拡大に向けて、エディターの使いやすさと自由度を高めた
2014年にリリースしたVOCALOID4のエディター(a)に比べて、2018年にリリースしたVOCALOID5のエディター(b~d)は、多機能化したことが見てとれる。ビブラートなどの歌唱表現をアイコンから選ぶだけで追加できる「ATTACK EFFECT」や「RELEASE EFFECT」(b)、2000種類以上のフレーズを用意したプリセット機能(c)、好みの歌い方や声色に一発で変換できる「スタイル」機能(d)などを備える。(図:ヤマハ)
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使いやすい電子楽器を目指す

 例えば、あらかじめ音程や歌詞を設定したフレーズを2000種類以上プリセットとして用意している。ユーザーは、気に入ったフレーズを並べていくだけで歌声を作れる。歌詞で表せず、歌声合成できない掛け声などは、収録した音声データのまま使用できる。

 「スタイル」は、ロック調やポップ調などの音楽ジャンルをベースにして、機械学習(HMM)を用いて学習した人の歌い方を100種類以上収録した機能だ。従来は手作業で音程の波形を編集していた作業が、リストから選ぶだけで可能になる注4)

注4)歌手の小林幸子氏の声から作成した「VOCALOID4 Library Sachiko」で、本人のこぶしやビブラートを再現した「幸子節」を実装したことがスタイル機能を開発したきっかけとなった。

 さらに、入力音声に対して別の目標音声を混ぜる機能を実装したことで、声の張り具合や息の量、母音の音色などを変更可能になり、ささやき声なども表現できるようになった。

 ヤマハは、VOCALOIDシリーズを、ユーザーが音楽を作るための電子楽器と位置づける。電子楽器とは、元の楽器の再現を目指す製品群だ。ただし、「人の声を目指すだけではなく、特徴的な声を作るという、2つの方向性の両立を目指している」(ヤマハの小山氏)。今後もユーザー目線を意識して、楽器としての使いやすさと機能向上を図る。