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音声合成技術によるリスクについてはどう見ていますか。

南沢 最近、他社やフリーの方も含めて多くの声優さんから聞く話なのですが、「あなたの声を(音声合成用に)収録させてくれないか」という打診がよくあるそうです。それは研究開発のためかもしれませんし、ビジネスに使おうとしているのかもしれません。これが進むと、あまり良い表現ではありませんが、それこそ我々の業界が「焼け野原」になってしまいます。つまり、声優さんの権利が買い取られてしまう。

それは、例えば「1回ギャラを払えば後は無制限に使える」というような打診ですか。

南沢 そうです。でも、それは我々の業界からすればあり得ません。外国映画もアニメも、二次利用されればそのたびに利用料が発生するんです。

 だから、我々が音声合成技術と向き合っていくときに、これが最大の問題になるかもしれないと、デジタルボイスパレットを一緒に創設した電通さんにも最初に説明しました。声優さんの声が買い取られてしまうのではなく、案件ごとに利用料が発生するルールや制度を確立したいと。それも、当社の描く大きなプランの1つです。そういう思いも込めて、「発声権」という概念を提唱しました。

 実際、東芝さんなど音声合成技術のベンダーには、テレビ局などから「(音声合成技術を使って)アニメのアフレコをやってみたい」という打診が来ているそうです。それを聞いて、これは危ないと思いました。我々が作り、守ってきた業界の、その一角でも崩れたら危ないと。

(写真:加藤 康)
(写真:加藤 康)

業界全体の受け止め方はどうでしょうか。

南沢 人それぞれというところでしょうか。ある有名な声優さんは、とても不安がっていました。その方が「我々の仕事が無くなっちゃうよねぇ」と言うので、私は「無くなりません」と答えました。むしろ、アフレコやイベントで忙しいときに、“もう1人の自分”がナレーションの仕事をしてくれると理解することもできますと伝えました。音声合成技術にできることとできないことが、まだ正しく理解されていない面はあるかもしれません。

 現時点では、収録など音声合成技術を活用するまでのプロセスに多くの時間や手間が掛かっていて、コストパフォーマンスが悪い気はしています。そこはもう少し進化を期待したいところです。

 いずれにしても、音声合成技術が健全に発展していくことはとても大事です。先輩たちが苦労して作り上げた現在の業界を、新しい技術が出てきたからといってガラッと変えるのではなく、それらを引き継ぎならもっと良くするために新しい技術を使いたい。私は「復古創新」という言葉が好きなんです。古いものを新しくして、さらにもっと新しいものも生み出していく。古いものというのは、例えばアフレコのためにトレーニングで培った滑舌などのスキルですね。これを新しい技術に生かしていく。そして、権利の問題などを解消しながら新しい仕組みも作っていきます。