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声優にとって滑舌などは今後も引き続き重要なスキルだと思いますが、音声合成技術が普及すると声優に求められるスキルは変わっていくのでしょうか。

南沢 昔と今で大きく違っているのは、昔の声優さんは黒子だったんです。どんな人気声優さんでも、表に出るのはタブーといいますか。作品やキャラクターを大事にしているから、自分は出ないという考え方ですね。今は違います。声優さんが堂々と最前線に出て行く。極端な話、キャラクターよりも前に出た方が良い場合さえあるかもしれません。それは、作り手側の意識や、何よりもファンの気質が変わったことが大きいですね。とにかくガラリと変わりました。

声優の人格などが表に出てくる機会が増えているのですね。

南沢 昔はまず作品があって、そこに登場するキャラクターが発する言葉にみんな影響を受けていたんです。今もそれ自体は変わらないのですが、それに加えてそのキャラクターを演じる声優さんも半ばキャラクターと一体化してインターネット放送などを通して世界観や人生観を発信し、聞いている人たちに影響を与えている面があると思います。それはすごく大事な要素になっている気がします。

 こうしたことは合成音声には絶対にできません。亡くなった方の声をよみがえらせたとしても、それだけはできないんだろうなと思います。

音声合成技術やその周辺技術には、どのような進化を求めますか。

南沢 それこそ、AIひばりさんがそれを表していたと思います。私は、美空ひばりさんは絶対に楽譜通りに完璧に歌う方なんだろうと思っていました。そうしたら、実際は少し音程を外して歌っていたと分かり、驚きました。あの番組を見て、本当にいろいろと思うことがありました。やはり、データや数値を超えていく個性や才能が人間の表現であり、またそれを客観的に検証していくのが技術者の方々なんだろうなと。

 声優さんは理屈抜きで演技や芝居を身に付けているので、単純に合成音声を持ってきても違和感が出てくると思います。例えば、デジタルボイスパレットでは当社の玄田哲章さんの声で合成音声を作りましたが、芝居の部分だけは「これは俺じゃないな」と言うんです。では、音声合成技術がそこを目指すべきかといえば、また別の考え方が必要なんだろうという気がします。とはいえ、それを我々が言い続けることで、技術が向上していくという面もあるはずです。

 音声合成技術は、演技や芝居とは違う可能性を限りなく追求できると思います。玄田さんに「(音声合成技術を使えば)あなたの声が、英語、フランス語、ドイツ語、中国語、韓国語にもなるんだよ」と言ったら、彼は「すっげーな」と言っていましたからね。用途はいくらでもあると思います。

(写真:加藤 康)
(写真:加藤 康)