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 「人と一緒に音楽を作っていけるAI(人工知能)技術でありたい」――。そう話すのは、深層学習(ディープラ-ニング)技術を活用した歌声合成ソフトウエア「VOCALOID:AI(ボーカロイド:エーアイ)」を開発した、ヤマハ研究開発統括部第1研究開発部AIグループ主任の大道竜之介氏だ。

 「合成音声でも、歌手と対話しながら制作するように楽曲を作れるようになった」(同氏)。AIはメロディーと歌詞から自律的に楽曲を解釈し、出力するたびに歌い方を変えてくる。それは、あたかも実際の歌手と一緒に制作しているようだという。

ヤマハ研究開発統括部第1研究開発部AIグループ主任の大道竜之介氏
ヤマハ研究開発統括部第1研究開発部AIグループ主任の大道竜之介氏
(撮影:日経 xTECH)
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 VOCALOID:AIは、歌声合成ソフトウエアの既存製品「VOCALOID」シリーズのノウハウを基にして、ヤマハが以前から研究開発してきた新しい歌声合成エンジンを使用する。既存のVOCALOIDシリーズは、人の歌声を収録した音のデータベースから切り出した波形をつなぎ合わせる、波形接続型の歌声合成エンジンを用いていた。VOCALOID:AIは、ディープニューラルネットワーク(DNN)型の統計モデルを用いた歌声合成エンジンとした。

 波形接続型の歌声合成エンジンでは、人が決まった文章群を読み上げることで素材となる音声を収録していた。一方、VOCALOID:AIではそのような収録は不要で、楽曲の歌声を読み込ませることで学習させる。CD1枚分(約60分)の音声データがあれば、歌声合成エンジンを作成できるという。「実際には数十秒程度の音声データからでも作成できる手法があるが、データが多ければ多いほど再現度が高く、表現も豊かになる」(大道氏)。

 この利点を生かして実現したプロジェクトが、日本放送協会(NHK)が2019年9月に放映した特別番組「AIでよみがえる美空ひばり」である。1989年に亡くなった歌手の美空ひばりさんをAIで再現するというプロジェクトで、この企画のために作られた新曲を、VOCALOID:AIを用いてファンの前で歌い上げた。

 AIの歌唱する新曲を収録したCDが発売されるほか、AIで再現された美空ひばりさんが、2019年12月の「第70回NHK紅白歌合戦」に出演すると発表されるなど、世間の注目を浴びた。

NHK特別番組「AIでよみがえる美空ひばり」のために作られた新曲「あれから」のCDジャケット画像
NHK特別番組「AIでよみがえる美空ひばり」のために作られた新曲「あれから」のCDジャケット画像
(出所:日本コロムビア)
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