全3539文字
PR

デジタル時代を先導する企業「DXグランプリ」に選定されたANAホールディングス。同社では、新サービスのアイデアをPoCから事業化へつなげるための工夫を凝らしている。ANA(全日本空輸)のデジタル化のキーパーソンがノウハウを伝授する。

 これまで我々がPoC(Proof of Concept、概念実証)を進める際に気を付けているポイントについて解説してきました。1つ目は「PoCのトリガーを作る」。2つ目は「PoCの実効性を上げる」でした。

 今回は3つ目の「デザイン力を高める」です。PoCで検証しようとするサービスが、そもそも価値が低いものであれば意味がありません。優れたサービスをデザインする力をIT部門がつけるため、様々な工夫や考え方を取り入れて実践しています。キーワードは「連鎖的デザイン」「イノベーションハニカム」「データドリブン思想」「テクノロジーのコモディティー化」です。順に紹介します。

システムの完成は新たな仕組みの始まり

 1つ目のキーワードは「連鎖的デザイン」です。1つのシステムが稼働し始めると「その件に関しては終わり」とピリオドを打ちたがる人はいないでしょうか。従来のIT部門ではこうした考えの人が多かったと思います。

 しかし、デジタル化プロジェクトでは、あるアイデアを実現したら、「その仕組みがさらなる価値を生めないか」を議論するようにしています。具体的には以下のような観点で話し合います。

  • この仕組みで発生したデータを使って何かできないか
  • この仕組みを別の部門の業務に活用できないか
  • この仕組みを作る過程で感じた課題を解決するテクノロジーはないか

 実は、これらの観点は1つのプロジェクトが終わった後だけではなく、PoCの最中から考え始めています。こういう議論が継続的に新しいサービスをデザインする力につながると考えています。

 具体例を用いて説明しましょう。この特集で車椅子やベビーカーの位置を空港の係員に知らせるスマホアプリを紹介しました。

 このシステムの仕様を検討しているときから、「車椅子やベビーカー以外の別の品物を管理できるのではないか」と話していました。このときの議論は後に実現します。車椅子やベビーカーを管理するシステムを構築した後、そのノウハウを生かしてペットケージ(ペットを運ぶためのおり)を管理するソリューションを作ったのです。1つの案件から次のサービスのアイデアを引き出す。これは1つのデザイン力だと考えます。

ビーコンを取り付けたペットケージ
ビーコンを取り付けたペットケージ
(出所:全日本空輸)
[画像のクリックで拡大表示]

「ハニカムしてる?」を合言葉に

 2つ目のキーワードが「イノベーションハニカム」です。これは、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)や人工知能(AI)、IoT(インターネット・オブ・シングズ)など、先進テクノロジーを、六角形を隙間なく並べた「ハニカム」にマッピングした図です。

テクノロジーを組み合わせるきっかけになる「イノベーションハニカム」
テクノロジーを組み合わせるきっかけになる「イノベーションハニカム」
(出所:全日本空輸)
[画像のクリックで拡大表示]

 このイノベーションハニカムを参考にすることで、今進めているPoCに別のテクノロジーを組み合わせられないかどうかを検討します。別のテクノロジーを組み合わせて新たな価値を生むことができるかどうかを考えるきっかけにしているのです。例えば「IoTで収集したデータをRPAで集計し、AIでデータ解析する」といったイメージです。

 ANAのIT部門内では「ハニカムしてる?」という会話がよく聞かれます。これは、1つの案件に没頭している部員に対して、「他のテクノロジーを活用するなど発想を広げてみてはどうか?」と気遣うときに言う言葉です。

 従来のIT部門では、案件単位に担当者が割り振られ、その人しか関与しないといった運用が起こりがちでした。しかし、デジタル化プロジェクトでは少し違います。案件の主担当は存在しますが、その人だけが抱え込んでいる状況をよしとしません。

 1人で抱え込んでいる部員に対し「ハニカムしてる?」と我々が呼びかけるのは、テクノロジーの組み合わせを促しているだけではありません。そのテクノロジーに詳しい別のメンバーが部内にいます。つまり、IT部門内の別の仲間とのコミュニケーションを促す効果があるのです。相手が「ハニカムしてますよ」と笑顔で答えたときは、チームとしてのコミュニケーションが機能し、チームでのデザイン力が発揮されている証拠です。