いま自動車業界で最も危機感を抱いているのが、部品メーカーである。二酸化炭素(CO2)排出量のゼロ化を目指す荒波や、「CASE」に代表される「100年に1度の大変革期」の到来で、エンジン車やマイカーの販売台数が激減することは、部品メーカーにとって死活問題だ。深刻度は自動車メーカーより大きいかもしれない。
筆者は、日本の主要部品メーカーを束ねる日本自動車部品工業会(JAPIA:Japan Auto Parts Industries Association、以下「部工会」)の技術顧問でもある。部工会は、業種が多岐にわたる約440社の会員企業が加わる組織で、世界の自動車産業を陰で支えている。
会員企業の技術者と話すたびに彼らの強い危機感を覚える。中でも関心が高いのが、モビリティーの将来だ。2018年度から部工会の内部組織である総合技術委員会に「モビリティ将来技術研究会(以下、モビ研)」を設立し、部品メーカー間での議論を本格化させた(図1)。
モビ研の第1弾プログラムが、会員企業の技術・商品企画に携わっている中堅社員を対象とした勉強会「激変する自動車動向を踏まえた技術企画人材養成コース:1.5年間」である。21社から1名ずつ、精鋭が集まった。2018年10月に始まり、2020年3月で修了する計14回のカリキュラムで構成する。自動車業界のみならず、各界のトップで活躍されている一線級の講師を招き、講演会などとともに質疑応答で活発に議論した(表1)。
今回はモビ研の勉強会から部品メーカーに共通する危機感と、それに対する講師の回答を紹介したい。個人の特定を避けるため、活発な議論の中で飛び交った部品メーカー共通の問題意識と、それに対する筆者の見解を交えた講師の回答の概要について、仮想の質問者と回答者がやり取りする形で紹介する。
なお、カリキュラムについては、CO2問題など環境変化に伴って激変する世界の自動車産業の動向把握を皮切りに、エンジン、電動化、電気自動車(BEV)、自動運転、MaaS(モビリティー・アズ・ア・サービス)といった最新技術開発の方向性を主に自動車メーカーから学ぶ構成である。その後、部品各社が成長するためのイノベーションへの挑み方、研究企画・戦略立案の手法をワークショップ形式などで体得する流れだ。
テーマ | 講師名 (敬称略、肩書きは当時のもので一部短縮した) | 内容 | ||
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1 | 世界環境変化と自動車動向 | 自動車ジャーナリスト | 川端 由美 | クルマからモビリティへ グローバルな視点から見る自動車産業の変革 |
2 | 再生可能エネルギー | 産業技術総合研究所再生可能エネ研センター長 | 古谷 博秀 | 福島再生可能エネルギー研究概要見学 |
3 | エネルギー、低炭素社会、電力 | 経済産業省自動車課課長 | 河野 太志 | 自動車産業を巡る状況と対応の方向性 |
4 | 電動化I 内燃機関~PHEV | マツダ常務執行役員 | 人見 光夫 | 内燃機関改善の重要性 |
5 | トヨタ自動車パワトレC プレジデント | 岸 宏尚 | 電動パワートレーンシステムの今後 | |
6 | 電動化II EV、全固体電池 | 日産自動車常務執行役員 | 平井 俊弘 | 次の100年に向けたパワートレイン開発の挑戦 |
7 | 東京工業大学教授 | 菅野 了次 | 蓄電池の全固体化を⽬指して −新物質開拓から新デバイス開発へ− | |
8 | 業界向け各種試験設備 | 日本自動車研究所 | 入江 博之 | 自動運転評価技術を含む業界向け試験設備 |
9 | 自動運転、 Connected、MaaS | 本田技術研究所代表取締役社長 | 三部 敏宏 | 未来のモビリティ社会の姿 ―電動化と自動運転の融合― |
10 | トヨタ自動車先進技術開発C フェロー内閣府SIP PD | 葛巻 清吾 | 高度運転支援・自動運転実現に向けた技術開発 ―トヨタ・日本政府の取組み― | |
11 | 産学官研究開発 マネジメント | 農業食品産業技術総合研究機構理事長 内閣府CSTI元常勤議員 | 久間 和生 | 科学技術イノベーション創出に向けた 研究開発マネジメント ―Society 5.0の実現― |
12 | 破壊的イノベーション | 京都大学教授 | 山口 栄一 | 破壊的イノベーションの技術戦略 |
13 | 異業種、オープンイノベーション | リンカーズ取締役 | 加福 秀亙 | 圧倒的効果を生み出すオープンイノベーションの仕組みづくりの事例と実践 |
14 | 技術戦略 技術企画 | MASAMI DESIGN社長 | 高橋 正実 | 未来を見据えたイノベーション技術企画の創り方 ―マクロとミクロの視点で― |
移動革命で部品メーカーはどこに着目すべきか
モビリティー革命でMaaS社会が到来したとき、自動車部品に何が求められるのか。また自動車メーカーがMaaSに参画しようとしているが、ビジネスモデルはあるのか。
地域やサービス事業者ごとにMaaS車両のニーズは異なり、細分化する。ただし、どの事業者にも共通することは車両の稼働率を高めることで、メンテナンスや部品の補給システムが一層重要になる。これらの再構築が必要だ。難しいのは地域や事業者ごとに車両の使い方が異なり、部品に要求される耐久性が変わってくることだろう。
また、自動車メーカーは米アルファベット(Alphabet)など巨大IT企業と組んで積極的にMaaS事業に参画しているが、現時点ではそのビジネスモデルが明確になっていない(図2)。IT企業が主導する懸念も含めて、模索している状況である。
自動運転社会に向かう中、数年後に本当にレベル4以上の社会が実現されるのか。
日本では、道路交通法を改正してレベル3を認めていく方向。ただし、現在市場に投入されている車両は全て運転支援のレベル2以下である。安全性の担保と責任の所在の観点からレベル3の実現は難しいが、各社がしのぎを削っている。世界の動向を見ても、特定路以外でレベル4を実現するのはとても難しいとみられており、慎重な方向となっている。
パワートレーンが電動化で多様化していく中、自動車メーカー各社の将来戦略は異なる。部品メーカーはどこに軸足を置けばいいのか。