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マツダは2000年代に水素ロータリーエンジンを開発(出所:マツダ)
マツダは2000年代に水素ロータリーエンジンを開発(出所:マツダ)
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 再び脚光を浴び始めた水素エンジン――。技術面で最大の課題が、過早着火(バックファイア)と冷却損失である。同時に解決する手段はあるのか。

†過早着火(バックファイア)=可燃範囲の広い水素と空気の混合気が、吸排気バルブなど高温部品に接すると、自着火してしまうこと。レシプロ型の水素エンジンがなかなか普及できない原因の1つになっている。

 有力な手段と考えるのが、ディーゼルエンジンのような水素噴流火炎の拡散燃焼だ。水素ガスを予混合しないで筒内に高圧直噴し、圧縮自着火させる。あるいは、水素ガスを噴射しながら点火プラグで火を付けるなど、燃焼火炎が燃焼室や気筒壁面にできるだけ衝突しないようにすることが重要になる。

 技術的な難度は高いが、研究は盛んだ。熱効率40%くらいでよければ前回紹介した独Bosch(ボッシュ)の予混合過給リーンバーンコンセプトで十分だが、それ以上を狙うのであれば拡散燃焼を本気で検討する必要があると思う。

 最近の拡散燃焼の研究例で驚異的なのが、産業技術総合研究所が主体となり、川崎重工業らと確立した大型商用水素エンジンの新しい燃焼方式「PCC(Plume Ignition and Combustion Concept:過濃混合気点火)燃焼」である。高出力・高熱効率・低窒素酸化物(NO)を実現する。内閣府の総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)が主導した戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の1つである「エネルギーキャリア」で実施された。

 燃焼室内に噴射された水素ガス噴流が拡散する前の塊に点火して燃焼させる。火炎の壁面衝突を抑えて、冷却損失を低減できる。点火による拡散燃焼といえるようなものだ(図1)。

図1 水素ガス噴流が拡散する前の塊に点火して燃焼
図1 水素ガス噴流が拡散する前の塊に点火して燃焼
産総研や川崎重工らが開発した大型商用水素エンジンの新しい燃焼方式。産総研の資料を基に日経クロステック作成
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 NOx低減には、噴射と点火間隔の最適制御とEGR(排ガス再循環)で対応している。EGRを増やすと燃焼温度が下がり、NOxが減る方向。加えて、予混合ではないためにバックファイアが生じにくい。研究段階ではあるが、最大正味熱効率で54%、NOx排出量で20ppmに達した。これはすごいことである。ぜひ実用化にこぎ着けてほしい。