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 2025年までに全てのクルマを電動車にすると宣言したスウェーデンVolvo Cars(ボルボ・カーズ)。20年4月、48V仕様の簡易ハイブリッド車(MHEV:Mild Hybrid Electric Vehicle)用パワートレーン「B5」を搭載したSUV(多目的スポーツ車)「XC60」を日本で発売した(価格は639万円から)。Volvoの電動車戦略の中核となるパワートレーンで、今回、B5に搭載したガソリンエンジン(型式:B420T2)を分析する。

48V簡易ハイブリッド車「XC60」
48V簡易ハイブリッド車「XC60」
(撮影:日経クロステック)
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 電動車用ではあるものの、エンジン設計と燃焼改善にかなり気合を入れた大幅なモデルチェンジだ。比出力や比トルク、理論空燃比燃焼の性能、排気対応を含めて世界トップ水準と言える。親会社の中国Geely Automobile(吉利汽車)のエンジン設計者がかなり関与しているのかもしれない。

 さらにVolvoは、25年までに二酸化炭素(CO2)排出量を18年比40%低減する目標を掲げており、高出力ハイブリッド車(SHEV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)、電気自動車(BEV)なども随時投入する計画。25年に100万台の電動車を生産するという。

 新パワートレーンB5に採用されているエンジンは、直列4気筒2Lの過給直噴ガソリンである。ISGM(Integrated Starter Generator Motor)と呼ばれるモーター兼発電機がベルトを介してエンジンとつながることで、滑らかなエンジン始動や、ブレーキ時のエネルギー回生を実現する。極低温でも従来のスターターなしでエンジンを始動できるのもすばらしい。最高出力10kWのISGMによって、WLTCモード燃費は11.5km/Lに達する。比出力は92kW/L、比トルクは175Nm/Lと過給エンジンとしても高い。

真っすぐな吸気ポートにロングストローク

 エンジンでまず気になったのが、吸気ポートである。トヨタ自動車の現行世代TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)エンジン群をほうふつとさせる、バルブシートまで真っすぐなタンブルポートだ。高タンブル流と大きな吸気流量係数を両立している。さすがに、トヨタみたいなレーザークラッドバルブシートまで採用していないが。

タンブル流=吸気ポートからシリンダーに流入した空気が形成する縦渦のこと。「でんぐり返し」という意味だ。
吸気流量係数=吸気流量の流れやすさの無次元数。流れの抵抗が大きいと小さい。
レーザークラッドバルブシート=通常、吸気バルブシートは、吸気ポートの出口に金属合金のシートリングを圧入するが、シートリングを廃止し、シート部分に特殊な合金をレーザー溶射させて直接形成したもの。バルブシートの直前まで真っすぐな吸気ポートにできるため、高タンブル化できる。

 加えて、気筒の形状であるストロークボア比は、1.14のロングストローク仕様にしている。真っすぐなタンブルポートと組み合わせて、強いタンブルエネルギーをピストンの圧縮で崩壊させて乱流強度を大きくし、燃焼速度の向上を狙ったのだろう。圧縮比は、過給ガソリンエンジンとしては一般的な10.5である。

ロングストローク=ピストンが上下するストロークが、シリンダーのボア(内径)よりも長いこと。ストロークボア比=1は、ストロークとボアが同じ長さであることを意味する。

 燃料供給はセンター噴射で、すぐ横に点火プラグを配置する。排出ガスの浄化性能を上げるために触媒を早期に暖機するモードで、着火性を良くして燃焼安定性を実現しているという。触媒の早期暖機には、ピストンにあまり仕事をさせないように排気行程で燃焼させて、その熱をそのまま排気したい。センターに設けた燃料噴射弁から上死点前後で燃料を噴射してすぐに点火すれば、両者が物理的に近く燃焼を安定させやすい。暖機性向上のために2回噴射もしているようである。ただ、点火プラグが噴射弁に近すぎて、くすぶりが心配だ。

センター噴射=1気筒で4個の吸排気バルブの中央に燃料噴射弁を配置(ボアのほぼ中央)し、燃料噴射すること。