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 SUBARU(スバル)が2020年10月に発表予定の新型「レヴォーグ」――。新型水平対向(ボクサー)ガソリンエンジン「CB18」には初物づくしの技術が満載で、まさに執念のたまものだ。「局部成層リーンバーン(希薄燃焼)」と筆者が呼ぶ難度の高い技術を開発し、燃費性能と動力性能を両立した。なぜ“局部成層”か。希薄燃焼の進化の歴史を振り返りつつ、その詳細を明らかにしたい。

排気量1795㏄、圧縮比10.4、ボア×ストローク=80.6mm×88.0mm、レギュラーガソリン仕様。最高出力は130kW(5200~5600rpm)、最大トルクは300N・m(1600~3600rpm)とかなり低速側の実用域トルクを重視している
排気量1795㏄、圧縮比10.4、ボア×ストローク=80.6mm×88.0mm、レギュラーガソリン仕様。最高出力は130kW(5200~5600rpm)、最大トルクは300N・m(1600~3600rpm)とかなり低速側の実用域トルクを重視している
(撮影:日経クロステック)
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 「局部成層リーンバーン」というのは筆者が名付けたもので、スバル自身は「成層燃焼」と呼ばない。具体的には、点火プラグの近傍に微量の燃料を噴射して着火補助に活用する手法のことで、量産化にこぎ着けたのは世界で初めてだろう。点火エネルギーやタンブル流を強化する手法だけに頼ることなく、空気過剰率(λ)で最大2.0に達するかなり薄い混合気を安定して燃焼することに成功した。

成層燃焼=気筒内で、混合気濃度を上下や半径方向に分布させて燃焼する方式。リーンバーンの着火性を高める狙いで採用することがある。通常のガソリンエンジンでは、十分に均質に混合させて燃焼する。
タンブル流=吸気ポートから気筒に流入した空気が形成する縦渦のこと。「でんぐり返し」という意味だ。

 点火プラグ近傍だけ濃い混合気にする“局部成層化”の狙いは、窒素酸化物(NOx)の生成を抑えることだ。一般的な成層燃焼のように筒内の広い領域を相対的に濃くすると、NOxが多く発生する。筆者は28年前に局部成層リーンバーンの基礎研究を手掛けたことがあり、スバルが量産化したことは感慨深い。

必然の局部成層リーンバーン

 スバルはなぜ局部成層を採用したのか。リーンバーンの歴史を振り返ると、必然だったと思える。

 リーンバーンのガソリンエンジンを最初に量産化したのは、ホンダである。1973年に発売した「シビック」に搭載した「CVCC(Compound Vortex Controlled Combustion)エンジン」だ。1970年に米国で制定された排出ガス規制(マスキー法)を世界で初めてクリアした。

 かつてのディーゼルエンジンのような小さい副燃焼室にガソリンの濃い混合気を形成して点火。副燃焼室から飛び出るジェット火炎を主燃焼室の薄い混合気に噴射し、安定したリーンバーンを実現した。

 約10年後の1984年。トヨタ自動車は「カリーナ」の1600SGに、副室のない成層リーンバーンエンジンを搭載した。これもディーゼルエンジンを参考にしている。

 吸気ポートをディーゼルのようにヘリカル(らせん)状にして、気筒内にスワール流と呼ばれる水平方向の横渦をつくる。その横渦に、吸気ポートに設置した燃料噴射弁で時期をうまく制御しながら燃料を噴射する。

 スワール流と燃料噴射時期の制御で気筒上部に濃い混合気を形成する。スワール流は横渦なので、ピストンで圧縮された後にも濃い混合気層を気筒上部に維持しやすく、点火プラグで安定したリーンバーンを実現できる。加えて、ピストンによる圧縮でスワール流が押しつぶされ、乱れ強度を高められて燃焼速度も向上できる。

 ただ、昨今は排出ガス規制の大幅な強化によって、NOx排出量に対する規制値が極めて厳しくなっている。成層リーンバーンは、均質リーンバーンに比べて同じ空気過剰率(λ)でもNOx排出量が多く、規制をクリアするのが難しくなってしまった。

 そこで、スバルの局部成層リーンバーンの出番というわけだ。希薄な混合気を点火プラグで安定して着火しながらも、NOxを極力排出しないため、点火プラグ周りの濃い混合気の体積を必要最小限に抑える。一方、体積が小さ過ぎると着火や火炎伝播(でんぱ)の安定性が悪化する。このバランスをとるのが極めて難しいが、スバルは見事にやってのけた。