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 カーボンニュートラル燃料(CN燃料)として欧州で合成燃料e-fuelの研究開発が盛んな一方、北米を中心に開発プロジェクトが急増しているのがバイオ燃料(バイオマス燃料)である。研究途上にあるe-fuelの本格利用には時間がかかるとみて、技術的には既に確立しているバイオ燃料を重んじている可能性がある。

米国はバイオ燃料大国

 米国がバイオ燃料に力を注ぐ背景には、バイオ燃料を重視してきた歴史がある。そもそも1960~70年の大気汚染時代に遡る。70年に制定された大気浄化法や燃料無鉛化の取り組みに伴い、環境に優れたオクタン価向上剤としてバイオエタノールを添加するようになった。73年の第一次オイルショック以降は急激にバイオ燃料の生産量が増えた。

 政策面でも長年支援しており、2005年の包括エネルギー政策法(Energy Policy Act of 2005)の中に、再生可能燃料基準(Renewable Fuel Standard:RFS)を設けた。輸送用燃料(ガソリン、軽油、ジェット燃料など)に対してバイオ燃料の最低使用量(化石燃料への混合比率)を石油精製業者に義務付けている。

 07年には「RFS2」に改訂し、再生可能燃料量の長期目標値を360億ガロンに引き上げた。米国環境保護庁(EPA)が毎年その目標値を発表するが、20年のバイオ燃料目標は200.9億ガロンに達する。

 また、当初はオクタン価向上剤として添加していたMTBE(メチル・ターシャリー・ブチル・エーテル)が地下水の汚染や発がん性により使用禁止されたことも、バイオエタノール拡大の一因である。

 現在、米国ではバイオ燃料としてガソリンに10%のバイオエタノールを混合した「E10」と呼ばれる燃料が広く普及している。軽油では5%のバイオディーゼル燃料(BDF:Biodiesel Fuel)が混合された燃料が出回っている。

米国ではバイオエタノール100%の車両まで販売されている
米国ではバイオエタノール100%の車両まで販売されている
(出所:Ford Motor)
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 米国のバイオエタノールの生産量は、05年にブラジルを抜いて世界一となった。18年の生産量は、約159億ガロン(6010万kL)/年と2位ブラジルの約2倍に達する。日本のガソリン消費量は約135億ガロン(5100万kL)/年であるため、それを上回る。その主原料は、これも世界一の生産量を誇るトウモロコシである。

 一方でバイオディーゼル燃料の生産量は、欧州連合(EU)の約半分にとどまるが、それでも世界2位をインドネシアと競っている。主原料は生産量世界2位の大豆だ。ちなみにEUのバイオディーゼルの主原料は菜種だが、今後の生産量はディーゼル車の販売減少に伴って減っていくだろう。

 米国はバイオ燃料の開発を政策的にも強化する。例えば米エネルギー省(DOE)は、16年から「Co-Optima(Co-Optimization of Fuels & Engines)」と名付けたコンソーシアムを実施している。バイオ由来新燃料など再生可能燃料の利用の最大化と高効率エンジンの組み合わせによる最適化が狙いである。

 9つの国立研究所、大学、企業など20以上の組織が参画し、21年5月には後述の4件のバイオ燃料研究に対して新たに総額100万ドルを助成すると発表した。

 4件とは(1)重量級車両用ガソリンエンジン用バイオ燃料、(2)バイオ/石油系燃料の配合比率の最適化、(3)中量級車両用エンジン燃焼解析、(4)バイオ燃料のアンチノック特性解析である。

 米国はCN達成に危機感を抱いており、船舶や航空機、ピックアップトラックなどの内燃機関を搭載する大型モビリティーの脱炭素化にバイオ燃料が欠かせないとみて急いでいるのだ。バイオ燃料技術は既に確立されており、早く導入できる利点がある。

米国バイオ燃料の原料はトウモロコシが主軸
米国バイオ燃料の原料はトウモロコシが主軸
(出所:Ford Motor)
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