全5586文字
PR

多機能端末の全体で料率算定

 端末メーカーは、Qualcommのロイヤルティーの計算ベースを端末全体の価格とすることにも異議を唱えている。いまや端末は通話機能だけでなく、コンピューター機能、動画再生、録画、写真撮影、データ保存などの機能が端末コストの6割から7割を占めている(同p.169)。

 同社の特許は音声・データ通信機能に関するもので、他の機能部品、例えば液晶パネル、数百万画素級カメラモジュール、データ保存用メモリー、装飾部品、機構部品に関する特許を保有していない。同社自身も社内資料で、端末の価値を決めているのはモデムチップではなく、装飾部品、デザイン、ユーザーインターフェース、機構的な特徴などが合わさった「ユーザーエクスペリエンス」であることを認めている(同p.170)。

 さらにWi-Fi機能でデータ送受信できるようになっていることも端末のモデムチップの重要性を低減している。従って同社が寄与していない付加価値からロイヤルティー収入を得ているのは現実を反映していない。

「料率算定はチップベースで」

 さらに、端末販売価格をロイヤルティー計算ベースとして使用するのは米国判例法の寄与度ルールとも一致していない。2012年の連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)による「LaserDynamics v. Quanta Computer事件」の判決で、複数の部品から構成される製品においてロイヤルティー算定の基礎は製品全体ではなく、特許技術が実施されている「最小販売可能特許実施単位(smallest salable patent-practicing unit: SSPPU)」とする必要があると判示した。

 2012年の「VirnetX v. Cisco Systems事件」判決でもCAFCはSSPPUの適用を明確化している。今回のサンノゼ地裁でも、2014年の「GPNE v. Apple事件」の判決で、ベースバンドプロセッサー(モデムチップ)が携帯端末の適正なSSPPUである、と判示している。以上から、裁判所は、Qualcommは端末全体に対するロイヤルティーの権利を持たないと判断した(同p.172)。

 同社が端末メーカーの特許のクロスライセンスを受けているのにもかかわらず、ロイヤルティー料率が一定のままであり続けていることも同社のロイヤルティー料率が不当であると考えられる要因でもある(同p.174)。クロスライセンス契約の場合、通常は両社の特許の価値を考慮して、そのバランスからロイヤルティー料率が算定される。上述したように、同社の特許ライセンス契約は多くの例で無償のクロスライセンスの供与を規定していた(同p.45)。

「恒久的差止」が相当との判決

 Qualcommの違法行為は続いており、5G端末向けモデムチップ市場でも同社の支配的な立場が強まるとの懸念があることから、裁判所は同社の違法行為が今後も続く可能性が高いと判断して、恒久的差止措置を決定した。具体的な命令は次の通りである(同pp.227-233)。

(1)同社はモデムチップの供給を顧客の特許ライセンス有無状況で条件付けしてはならない。同社は顧客と誠意をもってライセンス条件を交渉あるいは再交渉しなければならない。その際に、モデムチップ供給、関連技術サポート、ソフトウエアの利用に関してそれらを提供しないと脅したり、差別的な条件を付けたりせずに行うものとする。

(2)同社は、モデムチップ・サプライヤーにFRAND条件で、特許消尽を伴う標準必須特許ライセンスを許諾しなければならない。その条件で争いがあるときは必要に応じて仲裁あるいは司法解決に従うものとする。

(3)同社はモデムチップ供給に関して明示あるいは事実上の独占取引契約を締結してはならない。

(4)同社は法執行や規制上の事件に関して顧客が政府当局に情報提供することを妨げてはならない。

(5)同社による上述の差止命令の遵守を確保するため、裁判所は同社が7年間にわたって遵守と監視手続きに従うことを命ずる。特に同社は上述の裁判所の差止命令の遵守状況を毎年FTCに報告するものとする。

 第3回以降では、QualcommとAppleの契約交渉の舞台裏、Intelが推進した無線通信規格「WiMAX」の普及阻止に向けた動きなど、公判から明らかになった事実、FTCと米司法省反トラスト局との軋轢について紹介する。