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営業時間を減らした結果売り上げがアップ

 またロイヤルホストは24時間営業をやめ、営業時間をかなり短縮しました。社長から早朝と深夜もやめて、営業時間を短縮したいという話があったときに、それで売り上げがどれくらい減るか聞いたら「7億円」と言われました。

 7億円って結構大きいんですね。ただ、やはり今は「質の成長」が必要という前提と、働き方を優先しなくてはいけない、またその分は他の好調な事業でカバーできる、では分かりましたと。

 実際に1年たって起きたことは、7億円増えたのです。早朝と深夜を削った代わりにランチとディナーに少し人を増やしたら、結果的にサービスが良くなり、お客さまの評価も上がって単価も上がった。そうして売上高が7億円増えました。営業時間は平均して1.3時間とかなり減った一方で売り上げが上がった。この2つを合わせて「規模の戦略的圧縮」と位置付けられます。

 これはすごく難しい概念です。難しいというか、私が勝手に言っている概念なのですが、下の図で説明してみます。横軸が規模、縦軸が価値です。何の規模か、何の価値かというのではなく、あくまで概念として捉えてください。

「規模の戦略的圧縮」のイメージ図
「規模の戦略的圧縮」のイメージ図
(出所:ロイヤルホールディングス)
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 製造業というのは規模が大きくなればなるほど規模の利益も働いて、線型で価値が上がっていく。これが製造業だと思います。

 それに対してサービス産業、特にロイヤルホストのような場合は必ずしも線型ではなくて、どこかで頂上を打って右肩下がりになる。これはなぜかというと数が増え過ぎることで陳腐化、使える食材の制限、人集めが難しくなるといった問題が出てくるからです。

 こういった点から低減していくタイミングというのがある。営業時間の短縮や24時間の廃止というのは、実は規模を縮小することによって価値を上げていこうという戦略です。

 ただ、これで解決という話ではなく、この山は動きます。なぜ動くかというと人手不足が原因です。ある部分で価値が最大化できたと思っても、人手不足によってまた価値が落ちてしまう。では規模を圧縮すればいいじゃないかということを続けていくと何が起こるか。それは「縮小均衡」です。

 今の時代は縮小均衡では成り立ちませんので、これに対して山を戻す作業が必要です。これがテクノロジーということになります。

生産性向上と働き方改革の両立だけを考えてお店をつくる

 先ほどのサービスの対価の話ですが、20年、30年かけてサービス対価が縮減したとすれば、当然のことながらその回復には時間がかかります。ただ、我々の足元で抱えている人手不足はもう「待ったなし」の問題です。

 我々が今、目の前にあるソリューションで使えるものは何かというとテクノロジーしかありません。もしくはテクノロジーがこの事態を打開させる可能性があると思っています。

 こうした背景で取り組んだのが「GATHERING TABLE PANTRY」という研究開発店舗です。完全キャッシュレスで現金を使わないお店をつくりました。

 私は2018年まで日本フードサービス協会の会長をしておりまして、各方面から「外食産業はこれだけ大きな産業なのに生産性が低いことは、日本経済全体に対して大きなインパクトを与えている」「外食産業、もっともっと生産性を上げなさい」とよく言われておりました。「製造業は研究開発をたくさんしているから生産性が高い」「外食産業は研究開発をしてないじゃないか」とも。

 果たして本当にそうだったでしょうか。実は外食産業も研究開発はよくしています。業態開発やメニュー開発です。でもこの業態開発やメニュー開発がイノベーションにつながるかというと、実はあまりつながっていないのです。

 新しい業態ができ、お客さまがたくさん来てくれたのでお店が増え、それを見たライバル企業もどんどんまねをしていったとします。結果として成熟して閉店が続きます、そうして人知れず消えてしまいます。つまりイノベーションとして連続していかないのです。であれば一度、業態開発は一切忘れてみようと考えました。

 それからもう1つ、人材の供給面の制約というのは一過性のものではなくてこれから構造的に進むものです。この2点を考えたら我々がすべきことは、恐らく「生産性向上と働き方改革の両立だけを考えてお店をつくる」ことだろうと。これがR&D店舗という位置付けです。

「GATHERING TABLE PANTRY」の外観
「GATHERING TABLE PANTRY」の外観
(出所:ロイヤルホールディングス)
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 私はこのお店の話が役員会に上がってきたときにあえて言ったんですね、「業態は何でもいいですよ」と。そこがポイントではないのです。

 この実験をしたことで売り上げがいくら上がったではなくて、「従業員が何分前に入ったらお店がオープンできたか」「ガラガラッとシャッターを閉めてから何分後にお店から出られたか」「あるトレーニングが今まで何時間かかっていて、それが何分になったか」。そこだけをKPI(重要業績評価指標)としてやってみるというのがこのお店の実験です。

 後半へ続く――。

日経BPが2019年7月に開催したIT関連イベント「IT Japan 2019」における基調講演を基に構成しました。