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 今度はお客さま向けではなく、社員の業務に向けたIT導入を見ていきましょう。ITは運航乗務員から整備士、空港スタッフなど、あらゆる部門で力を発揮しています。運航乗務員は昔、操縦用のマニュアルや世界の空港の地図を紙でカバンの中に入れて持ち歩いていました。客室乗務員も同様にマニュアルを紙で持ち運び、しかも頻繁に入れ替えていました。これらを電子化しタブレット端末に格納したことで、乗務員の荷物は軽量化できましたし、更新も一斉送信するだけでよく効率化が図られています。

 空港部門では自動チェックイン機の導入が挙げられます。私が入社した頃はもちろん紙の航空券でした。航空便に乗るときはボール紙のような厚い搭乗券に座席番号のシールを貼って、搭乗口で半券を切り離していました。機内に何人乗っているかは、この搭乗口で回収した半券を数えるという原始的なことを一生懸命やっていたのです。数が合わなかったりすると出発できませんので、客室乗務員が機内にいるお客さまをカウンターで数えるなどしていました。今は搭乗口を通過した人を記録し、乗客数の不一致がないかを自動で確認しています。

 乗務員や空港だけでなく、本社に所属するスタッフ部門でもITの活用が進みました。私自身もかつてレベニューマネジメント部長を務めていたとき、収入の予測を最大化する米PROS社製のレベニューマネジメントシステムを導入しました。当社の国際線の利用率は、国際線進出当初から60%前後で推移していました。このシステム導入により利用率が格段に上がり、2000年代の黒字化につながりました。

 次の時代に向けたIT導入も計画しています。1つは世界の航空会社の間で共通のキーワードになっている「OneID」です。お客さま1人ひとりの本人確認に顔認証を使い、そのデータを航空会社も空港運営会社も把握することで、空港内の保安検査場や搭乗口などの通過をスムーズにしていくという取り組みです。

 国内線システムのグローバル化も検討しています。当社では、国内線と国際線の旅客系基幹システムが2つに分かれています。これを1つに統一するのが長年の夢でして、これを今年決めていこうと思っています。これまでは予約操作などの入力方法などが全く別々になっているため、オペレーターも国内線と国際線に分かれ相互に応援を出せないという問題も抱えてきました。システムを1つにするとこうした問題も解決できるのではないかと思っています。

 また、全てのシステムを自社で保有し、自社で補修をする世界から、クラウドサービスを使うという流れになっていきますので、そういう意味ではこれは非常に重要な投資になることは間違いありません。日本航空もすでに国内線と国際線のシステムをクラウドベースで統合しています。

乗り放題に機内食オーダー、背景に挑戦の風土

 次に、我々ANAグループの中には挑戦の風土があることを紹介したいと思います。私自身が担当して経験したエピソードをちょっと紹介します。

 1つは「1日乗り放題」という運賃を出したときのことです。ANAは2000年に「超割」という、全国一律1万円の運賃を出しました。大阪~高松といった短い区間も、東京~沖縄も1万円です。爆発的に売れました。

 私は2002年にレベニューマネジメント部長になりました。当時は座席制限を設けておらず、売れる限り発売していたこともあって、この超割があまりにも売れていたんですね。そういう意味で画期的な運賃だったのですが、収益上難しいところがあるということで、私は最終的にこの運賃を廃止しました。

 ただ、当社は1952年の創業でしたので2002年に創立50周年を迎えていました。それに合わせて何かをしなければいかん、ということで、私と部下が日曜日に会社に行って考えたのが、この1日乗り放題運賃でした。しかも「何便乗っても1万円でいいじゃないか」ということでやったんですね。マイルもカウントされます。これは当然売れますよね。

 我々の創立記念日は12月1日です。そこから毎月やろうということで、12月1日から翌年の3月1日まで計4回計画しました。それまで航空機に乗ったことがない方も家族で乗るなど、発売と同時に圧倒的に電話が殺到しました。

 そして迎えた12月1日。これ、どうなったでしょうか。実は大変な事態となりました。

 一般に航空便は遅れることがあって、ご迷惑をお掛けします。例えば9区間予約して意気揚々と出発されたお客さまが、便の遅れにより予約通りの便に乗り継げないケースが相次いだのです。大トラブルになりました。もちろん全てのお客さまがトラブルになったわけではありませんが、せっかく4区間、5区間乗れると楽しみにしていたのに、3区間目で乗り継げなかったといったケースが出てくるわけです。

 お客さまにもご迷惑を掛けましたし、空港の係員にも迷惑を掛けました。そういう意味では設計上、甘かったなと思います。それでもめげずに4回敢行したのですが、3月1日には管制塔のシステムダウンも重なり、さらにトラブルに拍車が掛かりました。