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立ちはだかるレコード会社の壁

 iPodを時代の寵児(ちょうじ)に押し上げたのは、第3世代機の魅力以上に、インターネットで楽曲を購入できる「iTunes Music Store」だったことは想像に難くない。Apple社は第3世代機の発表と同時に、Macintosh向けにiTunes Music Storeのサービスを開始した。2003年10月にはWindows 版のiTunes を発表し、Windows パソコンのユーザーもサービスを利用できるようになった。

(出所:アップル)
(出所:アップル)
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 Apple社はiTunes Music Storeで、ハードウエアとソフトウエアが一体となってユーザーに「体験」を提供するという、iPodの中核コンセプトに立ち返った。パソコンに組み込んだソフトウエアが、インターネット経由で楽曲の購入/ダウンロードを可能にする。購入した音楽は、パソコンに保存するだけでなく、iPodにコピーして持ち運べる。

 Apple社は、iTunes Music StoreがiPodの販売を促進する手段であることを隠さない。iTunesのマーケティングを担当するChrisはこう表現する。「僕らは、かみそりに付ける刃を用意しなければならなかった」。

 Chrisによれば、Apple社がiTunes Music Storeの開発に着手したのは、発表から1年~1年半ほどさかのぼるという。iPodの最初の製品が世に出て間もないころである。

 Apple社の狙いは明確だった。一世を風靡(ふうび)したピア・ツー・ピアのファイル交換サービスの代わりに、瞬時に好きな曲を入手できる合法的な手段を提供しようというのだ。同じことを考えた企業は、Apple社のほかにもたくさんある。DRM(digital rights management)技術を盛り込んだ音楽配信サービスには、大手レコード会社が手掛けるPressplayやMusicNetなどが既にあった。DRM自体も目新しい概念ではなく、1996年に米Liquid Audio社がいち早く技術を開発していた。ところがApple 社がiTunes Music Storeを始めるまで、誰一人として事業に成功しなかった。

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 Apple社は、先行する試みの根本的な欠点は、ユーザーにとって使い勝手が悪いこととみた。「それまでのサービスのほとんどは、科学の実験みたいだった。Liquid Audioのサービスじゃ、曲をダウンロードするたびにクレジット・カードの番号を入力しなきゃならなかった。これじゃあ音楽を楽しむどころか、まるで金融取引じゃないか」(Chris)。

 使い勝手の改善は、Apple社にとってお手の物である。ただし、取り組むべき相手は、ソフトウエアやハードウエアだけではなかった。Apple社の前に立ちはだかったのは、楽曲の権利を所有するレコード会社の壁だった。(敬称略)