コロナ禍に企業が在宅勤務を推進した結果、この1年でテレワークが当たり前になった。出社する人が減り、オフィスが閑散としている企業も少なくない。
にもかかわらず、夏場の冷房や冬場の暖房を従来通りに動かしていたら、無駄が多いのは明らかである。出社しているオフィスワーカーの人数や居場所に応じて空調をコントロールし、消費エネルギーを削減してオフィスの光熱費を抑えたいものだ。
今回のデジタル活用(デジカツ)は、人が減っていくオフィスで無駄な運転を抑制する空調制御に焦点を当てる。東京建物とTOKAIコミュニケーションズ(静岡市)、内田洋行の3社が協業し、2020年夏から同年秋にかけて実施した検証の結果を基に紹介する。現在は冬から春に向けて、実験を継続中である。21年初頭は寒さで電力需給が逼迫しており、電気の浪費は避けなければならない。
似たような取り組みは、既に幾つかある。設計事務所が主導するものや空調機メーカーが取り組むものなど、プレーヤーは多彩だ。
そんな中、私が3社の協業に興味を持ったのは、データセンターで培った空調制御の実績をオフィスに応用しようという発想が面白いと感じたからだ。本当は実験しているオフィスを訪問したかったが、緊急事態宣言中でどこも在宅勤務を推進し、内勤者を減らしている状況なので、今回は見送ることにした。
TOKAIコミュニケーションズはデータセンター事業者向けに、AI(人工知能)を活用したサーバールームの空調制御システムやサービスを18年から提供している。データセンターの運営は、室内に設置する大量のコンピューターが発する熱をいかに効率よく冷やすかが大きなテーマになる。TOKAIコミュニケーションズはAIとセンサーを組み合わせ、データセンターにおける空調の消費電力量を最大で30%削減することに成功した実績がある。このノウハウをオフィスに持ち込んだ。
実験の舞台は、「東京建物八重洲ビル」の地上7階にあるオフィスフロアだ。ここには、東京建物ビル事業本部が入っている。フロア面積は1385m2である。
東京建物は、オフィスや商業施設といった不動産の開発と管理が本業だ。コロナ禍の現在は、新しいオフィス像を模索しているところである。そこで自社のオフィスフロアを使い、空調制御の実験をすることにした。
結論を先に書くと、対象フロア内の室温のムラが解消され、しかも同規模の他フロアと比べて消費電力量を約5割削減できたという。その背景では、AIの「意外な空調制御術」が明らかになった。