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 「建築デジカツ最前線」のコラムを始めて、早半年がたとうとしている。その間、何度も耳にしてきた言葉がコンピュテーショナルデザインである。

 建設業界におけるデジタル活用(デジカツ)の代表例が、建物の設計や構造設計におけるコンピュテーショナルデザインの拡大だろう。私は取材を通して、実際の利用場面に立ち合える機会に恵まれた。

コンピュテーショナルデザインの実践例。建物の屋根をシミュレーションで検証しているところ(資料:日本設計)
コンピュテーショナルデザインの実践例。建物の屋根をシミュレーションで検証しているところ(資料:日本設計)
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 コンピュテーショナルデザインとは、具体的な設計に入る前のプランやコンセプト固め、そのためのスタディーやシミュレーションなどを、コンピューターを駆使して実施することを指す。実現可能な最善のデザインやプランを見つけるために行う、設計の前処理といえる。

 このプロセスを経て、具体的な図面の作製という設計プロセスに突入する。コンピュテーショナルデザインがうまく機能していれば、検証が完了した段階で図面やパース(完成予想図)の原型はほぼでき上がっているに等しい。BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)ツールと連携させれば、設計にかける時間を大幅に削減できる。

コンピュテーショナルデザインに用いるソフトとBIMツールの連携例(資料:日本設計)
コンピュテーショナルデザインに用いるソフトとBIMツールの連携例(資料:日本設計)
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 コンピュテーショナルデザインをどの程度取り入れているかは、会社によっても設計者個人によっても、かなり差があるのが実情であることも取材で見えてきた。では、活用している人が好んで使っているツールは何か。既にデファクトスタンダード(事実上の標準)が決まりつつある。

 3次元(3D)モデリングソフト「ライノセラス(Rhinoceros)」(日本での販売元はアプリクラフト)と、そのプラグインソフトで3D形状をアルゴリズム生成して検証するグラフィカルエディター「グラスホッパー(Grasshopper)」である。ライノセラスとグラスホッパーはBIMツールで大きなシェアを占める米オートデスクの「Revit」と親和性が高く、かつ導入コストが安いため、急速に普及している。

 このコラムの初回で、ライノセラスとグラスホッパーの組み合わせが今や世界中の設計者の間で一般的になっていることを紹介した。ところが日本は「ライノセラス+グラスホッパー」というグローバルな潮流から出遅れている。コンピュテーショナルデザインで「日本は欧米より10年遅れ」と言うセリフを、この半年間に何度も聞いた。

 今ではアジア諸国の若い設計者も建築を学ぶ早い段階から、ライノセラスとグラスホッパー、Revitに触れ始めている。このままでは、日本企業は世界市場で取り残されかねない。清水建設のように、トップダウンで全ての設計者にライノセラスとグラスホッパーを習得させると決めた建設会社も現れた。

 私は今回、業界標準になりつつあるライノセラスを販売するアプリクラフトに話を持ち掛け、日本でコンピュテーショナルデザインの活用が進んでいる企業を紹介してもらうことにした。真っ先に名前が挙がった1社が日本設計である。

 同社が設計したプロジェクトといえば、都内では「虎ノ門ヒルズ」や、2019年に建て替えられて稼働した「渋谷区役所」「渋谷公会堂(LINE CUBE SHIBUYA)」などがある。