本物のダンサーとVR(仮想現実)/AR(拡張現実)で出現させたバーチャルダンサーが目の前で踊り、そして消えていく。
頭にかぶったヘッドマウントディスプレー(HMD)で周りを眺めると、まず見えてくるのは現実の会場風景だ。そこにダンサーが登場する。
2021年現在の最新技術を持ってすれば、非常に高い質感で人をバーチャルに表現可能だ。ダンサーの回りに特殊効果の映像を入れるのも難しくない。今見えているダンサーは本物か、それともバーチャルか。徐々に分からなくなる。
コロナ禍でオンラインでの仕事や遊びが浸透した今、現実世界を仮想空間にそっくりそのまま構築する「デジタルツイン」は夢物語でなくなった。リアルとバーチャルを区別することなく、自由に行き来する生活が当たり前になりつつある。
空間をつくるのが仕事である建築関係者にとって、仮想世界はもはや無視できない存在だ。バーチャルでの体験が「現実(日常生活)」の一部になり始めている。
その意味で、今回のデジタル活用(デジカツ)で紹介する「border(ボーダー)2021」は、リアルとバーチャルの「境目」とは何かを突き付けられるイベントである。現実と虚構が交錯し、境界の意識が変容していく不思議な体験が待っている。
私はborder 2021の準備期間中に現場を訪れ、取材した。体験者は終始、自動運転で動く電動車椅子に乗っている。自らの意思では会場を動き回れず、HMDをかぶって見る視線の向きは車椅子の動きに応じて制御される。
HMDで映像を見ながら電動車椅子に乗っていると、自分が今、会場のどこにいるのかも認識しにくい。こうして未知の世界にいざなわれる。
HMDに映るのは、作り込まれたVR、または会場の景色にバーチャルの映像を重ねたARだ。何も処理していない現実そのものの眺めを含めた3つの世界がHMDの中でシームレスにつながる。
このイベントを手掛けるのは、アーティストの真鍋大度氏と石橋素氏が率いるライゾマティクスと、演出・振付家のMIKIKO氏が主宰するダンスカンパニー「ELEVENPLAY(イレブンプレイ)」である。15年に発表したborderを、21年の最新テクノロジーを使って再構築した。この5年間でVR/AR、3Dスキャンといった映像関連技術は劇的な進化を遂げた。
21年2月13、14日に東京・青山のスパイラルホールで開催されるborder 2021は、デジタルツインの構築や活用、オンラインでのビジネス展開を考えている人などには、ぜひ体験してほしい公演だ。