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 本物のダンサーとVR(仮想現実)/AR(拡張現実)で出現させたバーチャルダンサーが目の前で踊り、そして消えていく。

電動車椅子の列の間をダンサーが踊りながら走り抜ける。このシーンは、ヘッドマウントディスプレー(HMD)をかぶった体験者にどう見えているのか。この記事では極力、ネタばらしはしない。なお、写真や画像は全て本番前のもの(写真:日経クロステック)
電動車椅子の列の間をダンサーが踊りながら走り抜ける。このシーンは、ヘッドマウントディスプレー(HMD)をかぶった体験者にどう見えているのか。この記事では極力、ネタばらしはしない。なお、写真や画像は全て本番前のもの(写真:日経クロステック)
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何人ものダンサーが猛スピードで目の前を通り過ぎていく。ダンサーは本物か、バーチャルか。HMDで動く映像を見ていると区別がつきにくい。以下、左右で同じ画像が映っているものは、HMDをかぶって両目で見た世界(資料:ライゾマティクス)
何人ものダンサーが猛スピードで目の前を通り過ぎていく。ダンサーは本物か、バーチャルか。HMDで動く映像を見ていると区別がつきにくい。以下、左右で同じ画像が映っているものは、HMDをかぶって両目で見た世界(資料:ライゾマティクス)
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現れては消えていくダンサー。ここは虚構の世界か(資料:ライゾマティクス)
現れては消えていくダンサー。ここは虚構の世界か(資料:ライゾマティクス)
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 頭にかぶったヘッドマウントディスプレー(HMD)で周りを眺めると、まず見えてくるのは現実の会場風景だ。そこにダンサーが登場する。

 2021年現在の最新技術を持ってすれば、非常に高い質感で人をバーチャルに表現可能だ。ダンサーの回りに特殊効果の映像を入れるのも難しくない。今見えているダンサーは本物か、それともバーチャルか。徐々に分からなくなる。

目の前に現れたダンサー。静止画だとバーチャルに見えるが、本当にそうだろうか。バーチャルダンサーの質感は非常に高く、映像では本物そっくりに見える。逆に本物のダンサーは、わざと粗く見せたりもする(資料:ライゾマティクス)
目の前に現れたダンサー。静止画だとバーチャルに見えるが、本当にそうだろうか。バーチャルダンサーの質感は非常に高く、映像では本物そっくりに見える。逆に本物のダンサーは、わざと粗く見せたりもする(資料:ライゾマティクス)
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ダンサーを強調するデジタル演出。ダンサー自身は本物?(資料:ライゾマティクス)
ダンサーを強調するデジタル演出。ダンサー自身は本物?(資料:ライゾマティクス)
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 コロナ禍でオンラインでの仕事や遊びが浸透した今、現実世界を仮想空間にそっくりそのまま構築する「デジタルツイン」は夢物語でなくなった。リアルとバーチャルを区別することなく、自由に行き来する生活が当たり前になりつつある。

 空間をつくるのが仕事である建築関係者にとって、仮想世界はもはや無視できない存在だ。バーチャルでの体験が「現実(日常生活)」の一部になり始めている。

 その意味で、今回のデジタル活用(デジカツ)で紹介する「border(ボーダー)2021」は、リアルとバーチャルの「境目」とは何かを突き付けられるイベントである。現実と虚構が交錯し、境界の意識が変容していく不思議な体験が待っている。

電動車椅子に乗る体験者自身が仮想空間に連れ出されたような気分になる(資料:ライゾマティクス)
電動車椅子に乗る体験者自身が仮想空間に連れ出されたような気分になる(資料:ライゾマティクス)
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 私はborder 2021の準備期間中に現場を訪れ、取材した。体験者は終始、自動運転で動く電動車椅子に乗っている。自らの意思では会場を動き回れず、HMDをかぶって見る視線の向きは車椅子の動きに応じて制御される。

私(川又D)が電動車椅子に座り、HMDを装着しているところ(写真:日経クロステック)
私(川又D)が電動車椅子に座り、HMDを装着しているところ(写真:日経クロステック)
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自動運転で動く電動車椅子に乗り、HMDでダンスを鑑賞するという公演スタイル自体、珍しい。私が体験した限りでは、VR/AR酔いや車酔いはしなかった(写真:日経クロステック)
自動運転で動く電動車椅子に乗り、HMDでダンスを鑑賞するという公演スタイル自体、珍しい。私が体験した限りでは、VR/AR酔いや車酔いはしなかった(写真:日経クロステック)
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 HMDで映像を見ながら電動車椅子に乗っていると、自分が今、会場のどこにいるのかも認識しにくい。こうして未知の世界にいざなわれる。

ダンサーが体験者を招き寄せる。そのダンサーが目の前から急に消えたら、どう感じるか(写真:日経クロステック)
ダンサーが体験者を招き寄せる。そのダンサーが目の前から急に消えたら、どう感じるか(写真:日経クロステック)
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ダンサーが手招きすると、電動車椅子が前に動き出す。ダンサーにはタイミングを合わせる高いスキルが求められる(資料:ライゾマティクス)
ダンサーが手招きすると、電動車椅子が前に動き出す。ダンサーにはタイミングを合わせる高いスキルが求められる(資料:ライゾマティクス)
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 HMDに映るのは、作り込まれたVR、または会場の景色にバーチャルの映像を重ねたARだ。何も処理していない現実そのものの眺めを含めた3つの世界がHMDの中でシームレスにつながる。

白いボックスの周りでダンサーが踊るシーン。写真のような客席からの眺めと、HMDで見ている世界は全く別物(写真:日経クロステック)
白いボックスの周りでダンサーが踊るシーン。写真のような客席からの眺めと、HMDで見ている世界は全く別物(写真:日経クロステック)
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会場にいる全員が仮想空間に移動したかのように思える瞬間(資料:ライゾマティクス)
会場にいる全員が仮想空間に移動したかのように思える瞬間(資料:ライゾマティクス)
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 このイベントを手掛けるのは、アーティストの真鍋大度氏と石橋素氏が率いるライゾマティクスと、演出・振付家のMIKIKO氏が主宰するダンスカンパニー「ELEVENPLAY(イレブンプレイ)」である。15年に発表したborderを、21年の最新テクノロジーを使って再構築した。この5年間でVR/AR、3Dスキャンといった映像関連技術は劇的な進化を遂げた。

 21年2月13、14日に東京・青山のスパイラルホールで開催されるborder 2021は、デジタルツインの構築や活用、オンラインでのビジネス展開を考えている人などには、ぜひ体験してほしい公演だ。