全3352文字

 今回のデジタル活用(デジカツ)は、地図の革新というべき話だ。まずは下の2つの画像を見比べてほしい。

 左は米グーグルが公開している地図サービス「Google Earth(グーグルアース)」の画面。右は国土交通省が20年12月にプロトタイプを公開した3次元(3D)都市モデルのプラットフォーム「PLATEAU(プラトー)」のビューワー画面である。

米グーグルの地図サービス「Google Earth(グーグルアース)」(左)と、国土交通省が20年12月にプロトタイプを公開した3D都市モデルのプラットフォーム「PLATEAU(プラトー)」の画面を見比べてみよう(資料:国土交通省、Google Earthは米グーグルが提供しているサービス)
米グーグルの地図サービス「Google Earth(グーグルアース)」(左)と、国土交通省が20年12月にプロトタイプを公開した3D都市モデルのプラットフォーム「PLATEAU(プラトー)」の画面を見比べてみよう(資料:国土交通省、Google Earthは米グーグルが提供しているサービス)
[画像のクリックで拡大表示]

 色味の違いこそあれ、どちらも上空から見た東京駅付近の地図画像である。表面的には違いが感じられない。

 しかし、電子地図の「裏側」に隠された情報は全く違う。今日の話の中心は、ここになる。

 私は取材をすればするほど、「PLATEAUが街づくりを変えるかもしれない」と思い始めている。普及すれば、建設業界に与える影響は計り知れない。

 そこで、国交省で3D都市モデルの整備プロジェクト「Project PLATEAU」を推進している、都市局都市政策課の内山裕弥課長補佐に話を聞いてきた。内山氏は、かなり大きな青写真を描いていることがよく分かった。

Project PLATEAUを推進する、国土交通省都市局都市政策課の内山裕弥課長補佐(写真:国土交通省)
Project PLATEAUを推進する、国土交通省都市局都市政策課の内山裕弥課長補佐(写真:国土交通省)
[画像のクリックで拡大表示]

 最初にPLATEAUの概要を説明する。内山氏が用意してくれた国交省の資料を基に話を進めよう。

 先に見たGoogle Earthは、都市空間の「形状」を再現した幾何形状(ジオメトリー)モデルと呼ばれるものだ。一言で言えば、2次元(2D)の地図を3Dに変換したものである。Google Earthに限らず、一般に3D地図と呼ばれるものはジオメトリーモデルでつくられている。

ジオメトリーモデルと、セマンティック(意味論)モデルを加えた地図の違い(資料:国土交通省、Google Earthは米グーグルが提供しているサービス)
ジオメトリーモデルと、セマンティック(意味論)モデルを加えた地図の違い(資料:国土交通省、Google Earthは米グーグルが提供しているサービス)
[画像のクリックで拡大表示]

 一方、国交省のPLATEAUはジオメトリーモデルに、「セマンティック(意味論)モデル」を加えて構成している。都市空間に存在する建物や街路、橋梁といったオブジェクトを定義し、これらに名称や用途、建設した年、行政計画といった都市空間情報を付与している。

 ジオメトリーモデルは形状を再現しただけなのに対し、セマンティックモデルを追加した電子地図は建物一つひとつを区別できる。「オフィスビル」「駅」といった建物の用途や、ビルの外壁や屋根に使われている「素材」などが情報として盛り込まれているからだ。

 地図上の建物には「高さ」という意味情報も付与できる。すると建物の高さで地図を色分けするといったことが簡単になる。これは便利だと、直観的に理解できるのではないかと思う。

 PLATEAUの先行モデルとして、3D都市モデルを整備している東京23区の電子地図を例に取ろう。「千代田区、中央区、港区、新宿区、文京区にある建物の高さで色分けをする」といったことが、一瞬でできてしまう。画期的である。

千代田区と中央区、港区、新宿区、文京区にある建物の高さで、地図を色分けして表示した例。専用のビューワー「PLATEAU VIEW」で操作・閲覧できる。PLATEAU VIEWの実装では、UI(ユーザーインターフェース)のデザインなどのアートディレクションに、建築やデジタルに詳しいパノラマティクスの齋藤精一氏らが参画している(資料:国土交通省、PLATEAU VIEWの画面)
千代田区と中央区、港区、新宿区、文京区にある建物の高さで、地図を色分けして表示した例。専用のビューワー「PLATEAU VIEW」で操作・閲覧できる。PLATEAU VIEWの実装では、UI(ユーザーインターフェース)のデザインなどのアートディレクションに、建築やデジタルに詳しいパノラマティクスの齋藤精一氏らが参画している(資料:国土交通省、PLATEAU VIEWの画面)
[画像のクリックで拡大表示]

 こうした画面を、Webベースの専用ビューワー「PLATEAU VIEW(プラトービュー)」から誰でも見られるようにするのが、プロジェクトの大きな目的の1つだ。既にPLATEAU VIEWのベータ版が国交省の専用サイトで一部公開されている(https://www.mlit.go.jp/plateau/)。

 国交省は日本全国の3D都市モデルを整備し、21年4月から順次、オープンデータとして一般開放する方針である。まずは公募に手を挙げた全国56都市、合計で約1万km2の3D都市モデルを国の直轄調査として整備する。

 勘がいい人はすぐに、PLATEAUの使い道が思い浮かぶかもしれない。代表例は、都市の防災だ。下の資料を見てほしい。建物の正確な情報が3D都市モデルに含まれていれば、ハザードマップの情報と重ね合わせることで被災の想定を「面」で一発表示できる。

 台風や大雨で河川が氾濫したとき、水没する下層階を避け、高いビルの上層階に逃げる「垂直避難」ができる建物を特定した例もある。福島県郡山市の3D都市モデルを使い、先行して検証が始まっている。

洪水や土砂災害のハザードマップ情報をPLATEAUに立体的に重ね合わせると、3D都市モデルには建物の高さの情報が含まれているので浸水エリアをすぐに「面」で表示できる(左)。河川が氾濫した場合、高いビルの上層階に逃げる「垂直避難」を検証している事例もある(右)。福島県郡山市の3D都市モデルを使って実施中だ(資料:国土交通省)
洪水や土砂災害のハザードマップ情報をPLATEAUに立体的に重ね合わせると、3D都市モデルには建物の高さの情報が含まれているので浸水エリアをすぐに「面」で表示できる(左)。河川が氾濫した場合、高いビルの上層階に逃げる「垂直避難」を検証している事例もある(右)。福島県郡山市の3D都市モデルを使って実施中だ(資料:国土交通省)
[画像のクリックで拡大表示]

 河川が氾濫したときの浸水想定区域図のようなハザードマップは、以前から公開されている。しかし、建物の高さが分かる地図がないと、誰でも理解できるようなビジュアルで表現するのは難しく、なかなか情報が広がらない。だがPLATEAUなら3D都市モデル上で簡単に、浸水ランク別に建物を色分けして表示できる。

東京・江東で荒川が氾濫したときの浸水想定区域図(想定最大規模の浸水ランクL2)をPLATEAUに重ねて表示した画面。衝撃的だ(資料:国土交通省、PLATEAU VIEWの画面)
東京・江東で荒川が氾濫したときの浸水想定区域図(想定最大規模の浸水ランクL2)をPLATEAUに重ねて表示した画面。衝撃的だ(資料:国土交通省、PLATEAU VIEWの画面)
[画像のクリックで拡大表示]
上の画面に避難施設情報(位置)を加えた画面。どの施設に避難したらよいか、浸水の程度に応じて行き先を検討できる(資料:国土交通省、PLATEAU VIEWの画面)
上の画面に避難施設情報(位置)を加えた画面。どの施設に避難したらよいか、浸水の程度に応じて行き先を検討できる(資料:国土交通省、PLATEAU VIEWの画面)
[画像のクリックで拡大表示]

 内山氏は「ジオメトリーモデルの地図は見た目は3Dでも、建物の形状をポリゴンで再現したものなので、建物一つひとつの高さが正確なわけではない。一方、PLATEAUには建物の意味情報が付加されるため、地図の利用範囲が大幅に広がる。特に防災には役立つ。国交省が3D都市モデルを主導する理由はそこにある」と説明する。

 防災以外にも、PLATEAUの適用範囲は無限に広がりそうだ。建物の高さの情報を太陽の動きと組み合わせれば、季節や時刻ごとに日陰になるエリアを割り出せる。ドローンの飛行ルートを決めるのにも役立つだろう。ドローン物流が一気に現実味を帯びてくるかもしれない。

 建物の用途の情報を使えば、商業施設周辺の交通需要から交通量を割り出したり、渋滞シミュレーションをしたりもできる。特定エリアに立つ建物の屋根面の総面積から太陽光発電の発電量を推定する、なんてことまで可能になるかもしれない。国交省はPLATEAUのハッカソンやアイデアソンを随時開催し、3D都市モデルの活用につながる気づきを掘り起こしていく計画である。