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 前回に引き続き、日本設計のコンピュテーショナルデザイン活用を紹介していく。

 コンピュテーショナルデザインについておさらいしておくと、建物の具体的な設計に入る前のプランづくりやコンセプト固め、そのためのスタディー、シミュレーションなどをコンピューターで実施することを指す。要件を満たす最適なデザインやプランを見つけるために実施する、設計の前処理におけるデジタル活用(デジカツ)である。

 私は2020年1月に日本設計のオフィスを訪れ、コンピュテーショナルデザインの実例をいくつか聞くことができた。例えば、室内の照度や熱負荷などをシミュレーションし、快適に働けるオフィスビルのファサードを決定するため、コンピュテーショナルデザインを用いている。

 今回は意匠ではなく、建物の構造設計を対象にする。代表的な例として日本設計が手掛ける、あるタワーマンションの地震対策のための構造検証を取り上げたい。地震対策はタワーマンションの購入者が最も気にすることの1つであり、設計者にとっては腕の見せどころだ。

構造設計のコンピュテーショナルデザイン例。建物の地震対策として「制振構造」と「免震構造」をシミュレーションで検証する(資料:日本設計)
構造設計のコンピュテーショナルデザイン例。建物の地震対策として「制振構造」と「免震構造」をシミュレーションで検証する(資料:日本設計)
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 タワーマンションでは地震対策に「制振構造」と「免震構造」を採用するのが一般的になっている。前者の制振とは、建物に地震の力が加わったときに起きる揺れのエネルギーを吸収して減衰させることを意味する。そのために「ダンパー」と呼ばれる装置を建物に組み込むのが一般的だ。その配置を決めるのに、コンピュテーショナルデザインを用いる。

 具体的には、タワーマンションの各層に置くダンパーの種類(鋼材あるいはオイル)と設置台数を、ダンパーがない状態を含めて検証する。利用するソフトウエアは最適化の支援ツール「modeFRONTIER」(開発はイタリアのESTECO)である。

 ここでは、ダンパーが吸収できるエネルギーの大きさと必要なコストの関係性を探ってみる。ダンパーのエネルギー吸収が大きいものほど性能が高いことになる。ただし、吸収力が大きな装置はコストも上がる。どこかで折り合いをつけなければならない。

ダンパーのエネルギー吸収とコストの関係を、対象となるタワーマンションでシミュレーションしたところ。図中の一つひとつの点が検証結果を表す(資料:日本設計)
ダンパーのエネルギー吸収とコストの関係を、対象となるタワーマンションでシミュレーションしたところ。図中の一つひとつの点が検証結果を表す(資料:日本設計)
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 解析結果のグラフで注目したいのは「コストが同じでも、ダンパーエネルギー吸収比(詳細は後述)の選択肢には幅がある」(日本設計構造設計群主管の武居秀樹氏)ということだ。縦軸のコストを固定し、目線をそのまま真っすぐ右に移していくと、同じコストでも複数の結果が点在していることが分かる。コストが同じなら、より吸収効果が高いものを選びたくなるだろう。