私は最近、横浜みなとみらい21地区で開発が進む幾つものプロジェクトを続けて取材している。10年ほど前までは空き地だらけだったみなとみらいは、ここ数年で街区がだいぶ埋まってきた。2025年ごろには、街の大部分が整う段階に来ている。今はあちこちで大規模な開発が着工したり、竣工・開業したりと、活気づいている。
みなとみらいのプロジェクトを調べると、鹿島が設計や施工を手掛けている建物が数多くあることが分かる。鹿島が事業者になっているプロジェクトも複数ある。いずれも大規模なものばかりだ。そのためか、みなとみらいの新築工事現場は、同社が掲げる「鹿島スマート生産」の実践現場になることが多い。
今回のデジタル活用(デジカツ)は、そんな鹿島が建設現場に取り入れているAR(拡張現実)活用を紹介する。私は早速、みなとみらいで23年4月に開業を予定している超高層ビル「MM37タワー」の建設現場に行ってきた。みなとみらい大通りを挟んで向かい側にはライブ施設「ぴあアリーナMM」があり、斜め向かいには22年5月20日に開業する「ウェスティンホテル横浜」が立っている場所だ。
事業者はKRF48。ケネディクスと鹿島、パナソニックホームズが出資する特定目的会社だ。設計者はコンストラクションマネジメントが三菱地所設計、基本・実施設計が鹿島である。施工者は鹿島・フジタ・馬淵・大洋建設共同企業体だ。
完成すると高さが約145mになるMM37タワーは、地下1階・地上28階建ての大型複合ビルである。MM37とは「みなとみらい37街区」という計画地を意味している。
敷地面積は約1万m2、建築面積は6106m2、延べ面積は12万3000m2と巨大だ。1つひとつの建物が大きいみなとみらいにあっても、MM37タワーは建設段階から既にかなりの存在感を放っている。特徴は都心では確保しにくい大きなオフィスフロアで、オフィス基準階面積は約5100m2ある。
私が最初に案内されたのは、低層部にできるオープンスペース(公開空地)の一角だ。約12mの高さがあるコラム型の鉄骨柱で支えられた、軒下のピロティ空間である。建物の四隅全てにこうしたオープンスペースを持つのが、もう1つの特徴だ。訪問した22年3月中旬時点では、仕上げ前の柱が何本も立っている状態だった。
その柱が完成時に、どうなるか。鹿島が自社開発したアプリ「現場AR(GENAR、ゲナー)」で確認させてもらった。柱にiPadをかざしてみた。
建物の完成イメージを見ると、低層部には長い柱が並ぶピロティ空間ができるのを確認できる。ただし、イメージは絵にすぎない。私がGENARで見ているのは、実際に取り付ける仕上げ材の写真を実物の柱に合成したものだ。完成形とほぼ同じ見た目をしている。
それではiPad片手に、広い現場を案内してもらうことにしよう。まずは1階の店舗フロア(インナーモール)と2階のオフィスロビーだ。
例えば、吹き抜けがあるところにエスカレーターが設置される予定の場所がある。まだ取り付けられていないエスカレーターをGENARで表示して、確認することができる。
逆に、床に穴が開いている場所に、エスカレーターが付くのをGENARで見ることもできる。
鹿島が現場にGENARを持ち込んだのは、現時点の施工状況に次工程以降の施工モデルをARで重ねることで、加工や取り付けの高さ、位置などを目視で確認できるようにするためだ。施工ミスによる手戻りや品質事故を減らす目的がある。
続いて、地下の駐車場に移動する。天井に取り付けられる設備類を色分けして表示してみた。ここは既に設備が現しの状態で施工済みだったが、例えば梁(はり)鉄骨だけの状態でスリーブの穴の位置にARを重ねて、設備の納まりや干渉などを確認するといった使い方もできる。
設備を天井の裏側に隠してしまう仕上げの場合は、まるで天井の中が透けて見えるように内部の設備をARで見ることも可能である。わざわざ図面を見なくても、ARで直観的に確認できる。
駐車場には最後に、車を誘導するためのサインや看板が壁や柱、床に付く。それらが見やすい位置にあるのか、車両が看板にぶつからないかを、実空間に駐車場の完成形とサインを表示して確かめることもできる。このときは一部のサインの位置が低すぎないかと、実際に検討していた。
今度はオフィスフロアに行ってみた。既に床のコンクリートが平らに整えられていた。とにかく広いのは、行けば一目瞭然である。ここでGENARをかざしてみる。すると完成時のオフィス空間が表示された。床にはグレーのタイルカーペットが敷き詰められている。カーペットの凹凸まで再現されており、かなりリアルだ。この広々とした空間が「こういう雰囲気になるのか」と理解できるわけである。
GENARは施工管理以外にも、使い道が多いことに気づかされる。完成モデルを現場に重ねることで、入居前の顧客への説明や合意形成がしやすくなるのは間違いない。顧客との認識違いが起こりにくく、トラブルを未然に防げる。