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 デジタル活用(デジカツ)で過去2回紹介してきた、国土交通省が主導する3D都市モデルの整備プロジェクト「Project PLATEAU(プラトー)」で大きな動きがあったので、お伝えしたい。公募で決まった全国56都市の3D都市モデルの整備が、2021年3月26日に完了したのだ。

 56都市のうち、まずは東京都23区の3D都市モデルを公式Webサイト「PLATEAU ver.1.0」で公開した(https://www.mlit.go.jp/plateau/)。3D都市モデルの作製のために整備したデータは、一般社団法人社会基盤情報流通推進協議会が運用する「G空間情報センター」から順次ダウンロードできるようになる(https://www.geospatial.jp/ckan/dataset/plateau-tokyo23ku)。

社会基盤情報流通推進協議会が運用する「G空間情報センター」のWebサイトから、PLATEAUのオープンデータを順次ダウンロードできるようになる。先行して東京都23区のオープンデータを21年3月末に公開済みだ(資料:G空間情報センター)
社会基盤情報流通推進協議会が運用する「G空間情報センター」のWebサイトから、PLATEAUのオープンデータを順次ダウンロードできるようになる。先行して東京都23区のオープンデータを21年3月末に公開済みだ(資料:G空間情報センター)
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 東京都23区の3D都市モデルの作製では、東京都から「土地利用現況調査」や「建物現況調査」などの都市計画基礎調査によるGIS(地理情報システム)データを借用。これらに含まれる建物の属性情報を基に、2Dの図形を生成した。そこに航空測量で取得した建物の高さや形状といった情報を掛け合わせ、3Dにモデリングしている。

 都市計画基礎調査のデータのうち、オープンデータにできる属性情報を国交省と東京都が調整し、モデルデータに付加している。属性情報には建物利用現況として、図形面積や建物地上階数、建物地下階数、建物構造、建物用途分類、住所(町丁目)が含まれる。

 オープンデータと同時に、PLATEAUのユースケース(活用事例)を44件、一挙公開した。その一部はWebベースの専用ビューワー「PLATEAU VIEW(プラトービュー)」で誰でも見られる。防災や街づくり、AR(拡張現実)/VR(仮想現実)の画像生成など、様々な場面で参考にできる。

Project PLATEAUの公式Webサイトには随時、3D都市モデルのユースケースが追加されていく(資料:国土交通省)
Project PLATEAUの公式Webサイトには随時、3D都市モデルのユースケースが追加されていく(資料:国土交通省)
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 ここで3D都市モデルについて、簡単におさらいしておく。3D都市モデルとは、現実世界(フィジカル空間)の都市を仮想世界(サイバー空間)に再現した、3Dの都市空間情報プラットフォームのことだ。2Dの地図に建物や地形の高さ、形状などを加えて作製した3Dの地図に、建築物の名称や用途、建設年といった属性情報を付与し、都市空間をデジタルで再現している。

 大事なポイントは、これまで省庁や自治体に分散していた建物の情報や人口流動、環境、エネルギーといったデータを3Dモデルと統合すること。都市計画や都市活動シミュレーションの精度向上を狙っている。

 PLATEAUは建物や街路といったオブジェクトを記述するのに、「CityGML」という言語を使う。地理空間情報の国際標準化団体であるOGCが策定したデータフォーマットだ。CityGMLで記述すると地図は見た目だけでなく、建物の階数や用途などまで正確に再現できる。サイバー空間にもう1つの都市(デジタルツイン)を構築しやすくなる。

 CityGMLは「LOD(Level of Detail)」と呼ばれる概念を持つ。再現する詳細度(LOD1~LOD4)のことだ。データ構造に一貫性を持たせて、誰が作製した3D都市モデルでも扱えるようにしている。最も簡素なLOD1の3D都市モデルは、都市計画基礎調査で取得した2Dの図形と建物の高さで構築可能である。

LODの概念図(資料:国土交通省)
LODの概念図(資料:国土交通省)
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 PLATEAUの詳細やPLATEAU VIEWの使い方については、過去のデジカツ記事を参照してほしい。

 Project PLATEAUは単に、オープンデータを提供するだけではない。3D都市モデルのユースケース開発に力を入れているのが特徴だ。国交省は地方自治体や民間企業、大学、研究機関とパートナーを組んで実験を重ね、ユースケースを蓄積して、どんどん公開していく。手本をまねするだけでも、各自治体や利用企業で一定の効果を得られるようにする。

 そんなユースケースの中から今回のデジカツでは、ドローン(無人航空機)を使った物流のフライト(飛行)シミュレーターの開発を取り上げる。離陸と着陸の2地点を任意で選択した場合、飛行ルートを算出できるかを確かめた。PLATEAUは建物の高さの情報を持っているので、ドローンの飛行ルートの検討に有効活用できそうだ。それを検証した画期的な事例である。

PLATEAUの3D都市モデルを取り込んで、ドローンの飛行シミュレーションをした例(資料:国土交通省、A.L.I. Technologies)
PLATEAUの3D都市モデルを取り込んで、ドローンの飛行シミュレーションをした例(資料:国土交通省、A.L.I. Technologies)
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 ドローンを使ったソリューション開発は、建設分野でも活発になっている。22年度にも都市部など人がいる場所で、ドローンの目視外飛行が認められる見通しだ。事前の安全ルート確保と手間の削減の両立は、ドローンの適用範囲拡大に大きく貢献しそうである。