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 国土交通省が主導する3D都市モデルの整備プロジェクト「Project PLATEAU(プラトー)」は、ユースケースの開発に力を入れている。前回は建物の高さの情報を有効活用したドローン(無人航空機)物流の飛行シミュレーションを紹介した。続く今回は、防災のためのバーチャル避難訓練を取り上げる。

 この事例の肝は、3D都市モデルに建物のBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)データを取り込んだことである。森ビルが、東京都港区に立つ地下3階・地上36階建ての複合施設「虎ノ門ヒルズ ビジネスタワー」のBIMデータと、PLATEAUの3D都市モデルを統合。屋内外をシームレスにつないだバーチャル空間を構築した。

 この仮想空間を使い、災害が発生したときの人の動きを異なる避難手段でシミュレーションしたり、人の滞留状況を可視化したりして、適切な避難方法を検証した。具体的には、災害時に屋内から屋外に避難する際の群衆シミュレーションを実施している。勤務者自身には、近隣にある日比谷公園までの避難経路を確かめてもらった。

 そのために森ビルは、2種類のVR(仮想現実)アプリ「屋内避難シミュレーション」と「徒歩出退社訓練支援ツール」を開発した。

虎ノ門ヒルズ ビジネスタワーでの「屋内避難シミュレーション」。人の滞留状況をヒートマップで可視化し、適切な避難方法を探った。グレーの円柱が人を表している(資料:国土交通省、森ビル)
虎ノ門ヒルズ ビジネスタワーでの「屋内避難シミュレーション」。人の滞留状況をヒートマップで可視化し、適切な避難方法を探った。グレーの円柱が人を表している(資料:国土交通省、森ビル)
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約1万3000人が一斉に避難するという想定をしたときの混雑状況をバーチャル空間で疑似体験する(資料:国土交通省、森ビル)
約1万3000人が一斉に避難するという想定をしたときの混雑状況をバーチャル空間で疑似体験する(資料:国土交通省、森ビル)
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 さらに、周辺エリアの建物を築年数別に色分けして表示し、地震で倒壊の恐れがある危険な場所の把握をビジネスタワーの勤務者に促した。安全な避難経路や適切な徒歩ルートの確保に役立ててもらう。

 3D都市モデルを記述するためにPLATEAUが採用した言語「CityGML」が持つ属性情報の1つ、「築年数」を参照する。築年数ごとに建物を色分けした地図を見ながら、各自が避難経路の安全度を検討する。

「徒歩出退社訓練支援ツール」の画面。築年数で色分けされた建物の情報を踏まえながら、安全な避難経路を確保する(資料:国土交通省、森ビル)
「徒歩出退社訓練支援ツール」の画面。築年数で色分けされた建物の情報を踏まえながら、安全な避難経路を確保する(資料:国土交通省、森ビル)
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虎ノ門ヒルズから日比谷公園まで避難するための経路を確認する。周辺に立つ建物の築年数を参照し、倒壊の恐れがある古い建物の近くはなるべく避けて通る(資料:国土交通省、森ビル)
虎ノ門ヒルズから日比谷公園まで避難するための経路を確認する。周辺に立つ建物の築年数を参照し、倒壊の恐れがある古い建物の近くはなるべく避けて通る(資料:国土交通省、森ビル)
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 CityGMLにおいて、建物の内部まで記述する「LOD(Level of Detail)4」は、最高レベルの詳細度を意味する。LOD4を実現するには、BIMデータを持つ企業などの協力が欠かせない。

 森ビルのユースケースは2021年3月末から、PLATEAUの公式Webサイトで公開されている(https://www.mlit.go.jp/plateau/)。誰でも見られるので、のぞいてみてほしい。

 虎ノ門ヒルズの一角を占める「レジデンシャルタワー」の建設現場では、20年11月に火災が発生している。都心での火事に、周辺は一時騒然となった。災害はいつ発生するか分からず、避難訓練に力を入れる必要がある。

 森ビルは大規模な避難訓練を毎年実施している。だがこの1年はコロナ禍で、大人数が集まる訓練ができなくなっている。3密を避けながら訓練する方法の1つとして、森ビルはバーチャル空間での避難訓練シミュレーションを考案した。そのとき役立ったのが、PLATEAUの3D都市モデルと自社が保有する建物のBIMデータだった。

六本木ヒルズで2019年9月に実施した総合震災訓練の様子。大勢の人が集まるので、コロナ禍では実施が難しい(写真:森ビル)
六本木ヒルズで2019年9月に実施した総合震災訓練の様子。大勢の人が集まるので、コロナ禍では実施が難しい(写真:森ビル)
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 虎ノ門ヒルズの地権者を含む管理組合の協力を得ながら、BIMデータでビジネスタワーの詳細な屋内モデルを制作。そのうえで3D都市モデルと統合した。これを使い、リアルの訓練と同等またはそれ以上の効果を得られるか検証した。