「もはやこのシステムなしに、施工管理は考えられない」。大規模な建設現場を統括するベテラン所長にそう言わしめた、斬新なデジタル活用(デジカツ)を紹介したい。大林組が自社開発した「4D施工管理支援システム」である。
舞台は北海道北広島市だ。北海道日本ハムファイターズが2023年シーズンから利用する予定の新球場、「エスコンフィールド HOKKAIDO」の建設現場である。開閉式屋根を採用し、天然芝のフィールドを備える日本初の野球場になる。収容人数は約3万5000人だ。
スタジアムの階数は、地下2階・地上6階建て。構造は鉄筋コンクリート(RC)造・鉄骨(S)造・SRC造。
スタジアムの周りには将来的に、店舗やホテル、公園などを配置する。そして「北海道ボールパーク(BP)Fビレッジ」として開業する計画である。
「北海道ボールパーク(仮称)建設計画」の発注者は、ファイターズ スポーツ&エンターテイメント。設計は大林組、米HKS。施工は大林組・岩田地崎建設特定建設工事共同企業体だ。
冒頭のコメントは、取材に応じた北海道BPJV工事事務所の竹中秀文所長の言葉である。竹中所長は毎日、工事事務所の大型モニターに映し出されるリアルタイムの現場の状況を欠かさず見ている。他の所員も同じだ。
約32ヘクタールある敷地に、延べ面積が約12万m2の新球場を建設する。計画地はとにかく広く、球場も大きい。そこで、最大26台の移動式クローラークレーンが稼働している。
冬場は大雪や吹雪にもなる極寒の現場で、「全体の進捗状況を把握するのは容易ではない」(竹中所長)。だが23年春のプロ野球開幕に開業を間に合わせるには、工期の遅れは許されない。
そこで大林組が持ち込んだのが、4D施工管理支援システムである。4Dとは、3次元(3D)+時間(タイムスタンプ)を意味する。建設中の球場とその周りの環境を含め、リアルタイムの現場の状況を空から俯瞰(ふかん)した視点で見える化した優れものだ。本物そっくりに再現したデジタルツイン利用の好例である。
具体的には、球場のBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)モデルに、ドローンで上空から収集した球場周辺を含む点群データ(3次元の位置データ)を重ねて表示する。どこまで作業が進んだのか、仮設材が今どうなっているのかなどがすぐに分かる。
移動式クレーンには、位置情報システムや様々なセンサーを取り付けた。車体の位置や動き、旋回、姿勢、ブームの角度や向き、フックの上げ下げといった情報を毎秒取得している。4D施工管理支援システムにはクレーンの動きから鉄骨部材の取り付け状況を判断できる仕組みが入っている。これでリアルタイムの作業進捗が分かるようにしている。
クレーンが持ち上げる鉄骨部材の吊(つり)荷重や位置を、BIMモデルの設計重量や位置と照合。そこから鉄骨部材がいつ取り付けられたのかを推測し、出来高を算出する。システムには「本日の鉄骨出来高」「本日の建方班人員」「本日の歩掛かり(作業当たりの人員数)」が表示されている。歩掛かりは、竹中所長が最も気にしている現場の管理指標である。
クレーンの動きから、日別の揚重状況(重量や回数)をグラフにするのも簡単だ。こうすると、クレーンの稼働率も分かりやすい。
広い現場を歩き回り、目視で進捗情報を収集するのは時間と手間がかかる。これでは意思決定が遅れがちになる。「4D施工管理支援システムを使えばタイムリーに歩掛かりや稼働率を把握できるうえ、BIMモデルと照らし合わせているので先の状況を予測しやすい。仮設材の撤去計画や危険予知などにも役立つ。様々な角度から現場を見られるのも便利だ」。竹中所長は太鼓判を押す。
所員や協力会社との情報共有もスムーズにできる。「データを見ながら話すと、説得力が増す。いつまでに、ここにスペースを空けないと、クレーンの置き場がないぞといった会話がしやすい」(竹中所長)。雪の日は仮設の壁や屋根を設置して、工事を継続することもある。こうした北海道ならではの仮設材管理にも有効である。
所長や工事長らは事務所の大型モニターで現場の全体像をつかんでから、実際に足を運ぶべき場所を見定めて行動する。こうすれば、無駄な動きが減る。
冬場は気温が氷点下20度にもなり、21~22年は何度も大雪に見舞われた。この現場は肉体的にも精神的にも正直つらい。それでも工事を止めないためには、所員に安全で効率的な動きが求められる。それを強力にサポートするのが、4D施工管理支援システムなのである。