高層ビルの建築に欠かせないタワークレーンが、劇的な進化を遂げようとしている。その現場に立ち会うことができた。
鹿島と竹中工務店が、建設機械レンタルのアクティオ(東京・中央)および建機や情報機器をレンタルするカナモトと共同開発した、タワークレーンの遠隔操作システム「TawaRemo(タワリモ)」が実現場に投入された。国内初の事例だという。
私は2021年4月初旬、東京都千代田区で再開発が進む「九段南1丁目プロジェクト(仮称)」(事業者は東急不動産と鹿島の合同会社ノーヴェグランデ)の建設現場に入ることができた。今回のデジタル活用(デジカツ)は、ここからのリポートだ。現場の目の前には、皇居のお堀越しに日本武道館が見える。
この場所で現在、築87年の「旧九段会館」の一部を残す保存棟と、高層の新築棟の工事が進んでいる。見上げると、新築棟の躯体上部でタワークレーンが動いているのを確認できる。
新築棟は完成すると、地下3階・地上17階建てで、高さが約84mになる。設計者は鹿島・梓設計 設計・工事監理業務共同企業体で、施工者は鹿島。工期は18年5月から22年7月までを予定している。開業は22年10月になる見通しだ。
地上からは、数十メートル上空にあるタワークレーン頂部の運転席は見えないが、実はそこには誰も座っていない。タワークレーンは、隣の保存棟の屋上に設置した遠隔操作室「TawaRemo操作ハウス」にある簡易コックピットからオペレーターが動かしている。
TawaRemoは、タワークレーンの運転席を地上にそのまま再現したシステムだ。オペレーターが座る椅子やコントローラーは全く同じものを使っている。モニターには普段運転席で見ている画面の他に、運転席正面の風景が広がる360度カメラの映像が映っている。左のモニターは運転席の後方などを映し出す。
タワークレーンと簡易コックピットは、ケーブルでつながっていない。Wi-Fiでシステムを無線接続し、タワークレーンに操作の信号を送っている。
私が見学したときは、タワークレーンで仮設材を新築棟の上部に運んでいた。タワークレーンに荷物を掛ける「玉掛け」の作業を職人がした後、クレーンで「巻き上げ」「起伏」「旋回」をし、所定の位置まで運搬する。仮設材はあっという間に、空高くまで上っていく。
オペレーターが地上で操作する姿は、あまりにも自然に見えるから不思議だ。「どうして今まで運転席はクレーンのてっぺんにあったのか」と疑問に思えてくるほど、なじんでいるように見える。カメラや通信の進化が、タワークレーン操作のニューノーマル(新常態)を生み出した。
「10年後には遠隔操作が当たり前になっているかもしれない」。そう感じるほど、私には画期的な出来事に思えた。