建物の壁から内装材や断熱材などを削り取り、「裸」にしたスケルトン状態のコンクリートの躯体(くたい)を3次元(3D)スキャンして正確な3次元座標を測定し、立体図面を作成する。数十年前の建物の改修では、こうした作業が実施される機会が増えている。
「点群」と呼ばれるデータを、躯体のあらゆる位置から取得する。3Dレーザースキャナーを壁や天井などに照射し、膨大な位置情報を集める。その集合体である点群で、躯体の正確な形状や寸法を計測・再現する。
今回のデジタル活用(デジカツ)は、だいぶ普及してきた点群データの話だ。土木分野では測量の延長で、地形の点群データを集めることが早くから始まっていた。そして最近は建築分野でも、既存建物の点群データを取得する動きが加速している。
とはいえ、まるで点描で建物の絵を描くかのように、建物を「点々の集合体」で表現するには膨大な数のデータが必要になる。収集するのは根気の要る作業だ。そんな現場の1つを紹介したい。
2020年3月、東京都渋谷区の住宅街に、野村不動産が販売する超高級の分譲マンション「プラウド上原フォレスト」が完成した。築35年の既存の建物を改修し、かつ隣にガラス張りの近代的な増築棟を建てて接続。合計15戸が入る建物に生まれ変わった。地下1階・地上3階建てで、住戸の最低価格は2億円台、最高は5億円を超えるという、いわゆる「億ション」である。
既存棟は1984年に竣工した高級賃貸マンション「エリーゼアパートメント」だ。ここの土地と建物を野村不動産が取得した。曲面状の外観にタイルを施し、非常に趣がある。解体するには惜しく、野村不動産は取り壊して新築マンションを建てるのではなく、改修の道を選んだ。
だが改修は一筋縄ではいかなかった。図面は約40年前に手書きされた竣工図しか残っていない。しかも、躯体が図面通りにできている保証はなかった。
そこで野村不動産は改修の設計・施工を依頼した竹中工務店と協議。3Dスキャンで躯体の実体を把握し、竣工図に基づく立体モデルと重ね合わせて、改修プランを検討するための正確な「現況図」を作成することにした。断熱材などは現在求められる性能レベルまで高める必要があったため、躯体はコンクリートの壁だけを残して丸裸のスケルトン状態にし、それを3Dスキャンした。
共同住宅の改修では、測量機を担いで各部屋を回り図面をつくるという、昔ながらの方法が用いられるのが一般的だ。しかし、時間がかかる。
測量ロボを使う手もあるが、竹中工務店は3Dレーザースキャナーで点群を集めることにした。
利用した機器は、ファロージャパン(愛知県長久手市)の3Dレーザースキャナー「FARO Focus3D X330」である。竹中工務店は2011年ごろから、FARO Focus3Dの検証を続けてきた実績がある。対象物にレーザーを照射し、正確な座標を測定する。