「照明は人が10秒以上、この場にとどまると、仕事に適した『作業照度』に出力がアップする」
日建設計の新領域開拓部門デジタル推進グループデジタルソリューションラボに所属する大浦理路コンサルタントは、天井に取り付けた細長い照明を指さしながら、私に説明し始めた。
ここは東京・飯田橋にある、同社の本社7階。様々なセンサーに囲まれたオフィスフロアだ。社員が実際に働く職場の1フロアを設備設計に関わるテスト環境に位置付け、機器やネットワークの設置とデータ収集をしている。
働き方の変化と職場環境の在り方を、日建設計は自社のオフィスを「実験場」にして観察する。今後のオフィス設計に生かせないか、20年秋から検証を始めた。
今回のデジタル活用(デジカツ)は、このオフィスからお届けする。私が訪れた21年3月末のある日、約1000m2ある仕切りのないオフィス空間は、テレワークの推奨で人影はまばらだった。
晴天だったこの日、昼間からフロアの照明を全開にしているのは、電気代がもったいない。省エネを考えれば、人が働いている周辺だけを適度な明るさにして、あとは照明の利用を抑えたいところだ。
だからといって、社員が毎回、照明のスイッチを付けたり消したりするのは面倒である。そこで日建設計はこのフロアに幾つものセンサーを取り付けて、オフィス環境を監視できるようにした。
そして手始めに、個々の照明の点消灯を自動コントロールしだした。これで働きにくくならないか、電気の無駄使いを減らせるか、確認する。
大浦氏が案内してくれた窓際近くの照明は、新しい仕組みを入れたばかりだ。冒頭の説明のように、真下に人がいることをセンサーがキャッチすると、照明を仕事に適した明るさ(作業照度)まで上げてくれる。隣接するエリアは作業照度の半分、それ以外の場所は職場内の移動などに最低限必要な「ベース照度」を保つ。
人が下を通過しただけでは、ベース照度から変化しない設定にしている。人が5分以上いなくなれば、「日中はベース照度に戻り、夜間や休日は自動で消灯する」(大浦氏)。地味な話に思えるかもしれないが、テレワークが定着するこれからの職場環境では標準的な機能になっていきそうだ。
大浦氏はもともと、設備設計の担当者である。設計者が複数の設備をトータルで制御できる仕組みを提案していくのも、珍しくなくなるだろう。それが発展すると、この1年で脚光を浴び始めた「建物OS」といったビル管理の統合プラットフォームにつながる。
人感センサーは人の「在/不在」を判定するものだが、社員が固有のIDを持つタグやビーコンを身に着ければ、個々人にとって働きやすい環境をつくれるようにも設計できる。そんな実験も始めている。