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 新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、人と人との距離を一定以上に保つ「ソーシャルディスタンシング(またはソーシャルディスタンス、社会的距離)」が求められるようになった。この環境下で、私たちはどんなコミュニケーションを取っていけばいいのだろうか。

 「誰も経験したことがないソーシャルディスタンシングの局面で、クリエーターやアーティストは何ができるか」。エンジニア集団のライゾマティクス(東京都渋谷区)は緊急事態宣言が出る前の2020年4月3日、「Staying TOKYO」というオンラインイベントを立ち上げた。合言葉は「家にいよう」「家からできることをしよう」である。

 ライゾマティクスの代表で建築や都市計画に精通する齋藤精一氏と、エンジニアでありメディアアーティストとしても活動する真鍋大度氏の2人が、Staying TOKYOの発起人だ。毎週金曜の夜に2人がゲストを迎えながら、様々な公開実験やトークセッションを展開していく。4月24日のゲストは、世界のアートシーンをけん引するオラファー・エリアソン氏が予定されている。

4月24日に開かれる「Staying TOKYO」の告知画面(資料:ライゾマティクス)
4月24日に開かれる「Staying TOKYO」の告知画面(資料:ライゾマティクス)
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 「Zoom(ズーム)」などを使ったオンライン会議や、カメラの映像を見ながらマイクを通じておしゃべりをし、各自が自宅でお酒を飲む「Zoom飲み会」が急速に広がり始めた。こんな時代が急に到来した中、これまでアイデアはあっても実装に至らなかったリモートやバーチャルの試みを素早く形にして、積極的に公開していく。それがStaying TOKYOの狙いだ。

 私も4月3日から毎週末、Staying TOKYOに自分のスマートフォンから「参加(視聴)」している。動画共有サービス「Twitch(ツイッチ)」の中の専用サイトにアクセスすれば、誰でも無料で参加(視聴)できる。

 Twitchはゲーム画面の閲覧や共有に使われることが多いプラットフォームであり、既存のサービスだ。その機能を使いつつ、ライゾマティクスが開発したコンテンツを載せるためのプログラムなどは自前で作っている。

 そこには1カ月足らずで準備したとは思えない、驚きの仕掛けが満載だ。しかも毎週、新しい実験が公開されている。

 このデジタル活用(デジカツ)のコラムでは今回から何度かに分けて、Staying TOKYOで披露されている数々の公開実験を取り上げていく。見せているコンテンツはエンターテインメントの要素が強いものが多いが、企業でも応用できるものばかりなので、ぜひ紹介したい。

 まずは、4月17日に公開されたオンラインパーティーの様子をリポートする。百聞は一見にしかず。とにかく画面を見てもらおう。

4月17日に「Staying TOKYO」のサイト内で開催されたオンラインパーティーの様子。この日は初公開のリハーサルだったので、出席者はライゾマティクスの社員に限られた(資料:ライゾマティクス)
4月17日に「Staying TOKYO」のサイト内で開催されたオンラインパーティーの様子。この日は初公開のリハーサルだったので、出席者はライゾマティクスの社員に限られた(資料:ライゾマティクス)
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 画面上に複数の顔が映っている。彼ら彼女らは、自宅にいるライゾマティクスの社員たちである。ライブ会場のような背景の仮想空間に、各自がパソコンなどのカメラを通してオンラインパーティー(音楽イベント)に参加している。アバター(分身)ではなく、本人がリアルタイムの映像で登場するのが、よくあるバーチャルイベントとの大きな違いだ。

 静止画だと分かりにくいが、参加者は自分のパソコンから、丸抜きされた自分の顔のカメラ映像をマウスで自由に動かせる。現実のイベント会場と同じように、話をしたい人の顔の映像に自分の映像を近づけると、相手と会話ができるようになる。逆に離れると、相手の声は聞こえなくなる。リアルの体験に近いオンラインコミュニケーション環境をライゾマティクスは作り込んだ。

 会場には音楽が流れている。左右のDJブースの絵に自分の顔映像を近づけると音量が大きくなり、離れると小さくなる。つまり、現実世界と同様に、自分と対象物(人やモノ)との距離に応じて、聞こえてくる音や声、その強弱が変化するのだ。これは面白い。

 私はこのオンラインパーティーに実際に参加し、体験してみたくなった。真鍋氏に依頼し、別の日に我が家から特別に参加させてもらった。真鍋氏と共に数々のプロジェクトを成功させてきたライゾマティクスの石橋素氏と、広報担当の女性社員を交えて、4人でささやかなオンラインパーティー体験ができた。確かに、相手に近づくと声が聞こえ、離れると小さくなり聞こえなくなる。

真鍋氏(左から2番目)ら3人と私(左端)で、オンラインパーティーの体験をしているところ。4人は別々の場所からリモートで参加している(資料:ライゾマティクス)
真鍋氏(左から2番目)ら3人と私(左端)で、オンラインパーティーの体験をしているところ。4人は別々の場所からリモートで参加している(資料:ライゾマティクス)
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 ただ、私にとってはそれ以上に、自分のパソコンから顔映像の位置をマウスで自由に動かせることが楽しかった。ユーザーインターフェースが簡単で使いやすい設計になっているのは、大人数の参加を考えた場合は特に重要になる。ウェブブラウザーがあれば、特別なソフトは必要ない。真鍋氏が立ち上げたパーティーサイトにアクセスするだけで参加できてしまう。オンラインパーティーの裏側では、ウェブを使ったリアルタイムコミュニケーションの仕組みが動いているという。

真鍋氏がオンラインでDJを始めたので、私(右端)はブースの前に移動した。自分の顔映像の位置は、自宅のパソコンからマウス操作で自由に動かせる(資料:ライゾマティクス)
真鍋氏がオンラインでDJを始めたので、私(右端)はブースの前に移動した。自分の顔映像の位置は、自宅のパソコンからマウス操作で自由に動かせる(資料:ライゾマティクス)
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 ちなみに、この日は4人で「Whereby(ウェアバイ)」というウェブ会議サービスを使って、オンライン取材をしていた。その途中で私が「オンラインパーティーに参加したい」と無茶振りをしたところ、真鍋氏がその場で環境を用意してくれたのだ。リモートですぐに、オンラインパーティー会場を出現させてしまうのも驚きである。

 本来このコラムは「川又Dが行く!」というタイトルが示すように、現場への突撃取材や私自身の体験談に基づく記事が大半を占めてきた。しかし、外出自粛のさなか、今後は現場には行けない場面が増えていくだろう。そうした環境の中、オンライン取材やリモートのサービス体験ができるのは貴重な機会だった。