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 現実世界をそのまま再現したかのような仮想の立体空間の中を、本人とそっくりな3D(3次元)の人物画像(CG)が動き回る──。そんな体験が間もなく身近になる。そう感じさせる最先端の映像を紹介しよう。

海岸沿いの岩場で同時に踊る複数のダンサー。全員、3Dデータでつくり出したバーチャル画像で、その場にはいない(資料:Adult Baby Records、daito manabe)
海岸沿いの岩場で同時に踊る複数のダンサー。全員、3Dデータでつくり出したバーチャル画像で、その場にはいない(資料:Adult Baby Records、daito manabe)
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 米国で活動するミュージシャン「KAZU」の楽曲「Come Behind Me、So Good!」のMV(ミュージックビデオ)が、2020年3月にYouTubeで公開された(https://www.youtube.com/watch?v=B3ygQCHn5Ps)。このMVは全編、現実と見間違うほどの精度の高い海岸や岩場、水辺の3D空間に、主人公(KAZU)や複数の女性ダンサーの3D画像を配置して制作されている。

 海に面した崖や岩場の近くで、ダンサーたちが踊っている。現地で撮影した映像に見えるが、本人はそこにいない。

 都内のスタジオに用意した32台のカメラを使い、複数のアングルからダンサー1人ひとりの静止画を撮影。それらの2D(2次元)画像を再構成して「3Dダンサー」を生み出している。3Dダンサーを海辺の3D空間に置くことで、あたかもその場で踊っているかのような映像をつくり出す。

32台のカメラでダンサーを様々な角度から撮影したときのマトリクス画像。これらの静止画を合成して「3Dダンサー(3Dデータ)」をつくる(資料:Adult Baby Records、daito manabe)
32台のカメラでダンサーを様々な角度から撮影したときのマトリクス画像。これらの静止画を合成して「3Dダンサー(3Dデータ)」をつくる(資料:Adult Baby Records、daito manabe)
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 複数のカメラを使い、2D画像から3Dデータを生成する技術は「フォトグラメトリー(Photogrammetry)」と呼ばれる。日本では写真測量法とも言う。

 フォトグラメトリーの技術は、この10年で大きな進化を遂げた。当初は人のシルエットをつくるレベルだったが、現在は顔の表情といったテクスチャー(対象物の表面や質感)から衣服のディテールまで、限りなく本物に近いリアルさに3Dデータが仕上がる。

撮影中のダンサー(資料:Adult Baby Records、daito manabe)
撮影中のダンサー(資料:Adult Baby Records、daito manabe)
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 撮影には、イメージエンジニアリングを手掛けるクレッセント(東京都江東区)のスタジオにある、「4DViews」のシーケンシャルスキャニングシステムを使った。ダンサーは、カメラに囲まれた部屋の中央で踊っている。

 MVを監督したのは、ライゾマティクス(東京都渋谷区)の真鍋大度氏とPELE(東京都杉並区)の清水憲一郎氏の2人だ。20年4月には「Official video behind the scene」(メイキング映像)が公開された。フォトグラメトリーについても解説している。

 私が建築のデジタル活用(デジカツ)でこのMVを取り上げようと思ったきっかけは、フォトグラメトリーとは別のところにあった。MVでは地形の「点群(ポイントクラウド)」がふんだんに使われており、そちらが気になっていた。