体験記事を書いた直後に、そのとき使った機材が大きな注目を集めることになるとは思ってもみなかった──。
今回のデジタル活用(デジカツ)は、建物や展示会などの空間全体を丸ごと撮影し、3D(3次元)で記録・保存できる赤外線スキャンカメラ「マーターポート(Matterport)」の話である。
2020年4月10日にマーターポートの体験記をこのコラムに掲載した。その後、思わぬ展開が待っていた。
新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、外出自粛が5月末まで約2カ月続いた。6月に入って経済活動や学校などは再開し始めたが、まだまだ予断を許さない状況であることに変わりはない。
そんな中、自宅からオンラインで体験できるサービスやイベントが数多く立ち上がった。その1つが、20年5月13日にオープンした、建築空間の疑似体験サービス「ARCHI HATCH(アーキハッチ)」である。
オープンに合わせてサイトで公開されたのが、建築家の前川國男の自邸である「新・前川國男邸」の「360度&シークエンス(連続)」の3Dモデルだ(https://archihatch.com/archibank/924)。
都内にある新・前川國男邸で実際に撮影し、生成した3D空間を画面内で自由に移動できる。「3Dウオークスルー」と呼ばれるものだ。360度部屋を見回せるだけでなく、素材や装飾品などまで細かく確認できる。4K画質の画像は非常に鮮明だ。
新・前川國男邸の撮影に使われた機材が、マーターポートである。マーターポートには機器の前面にカメラが6つ、赤外線センサーが3つ付いている。本体は高さが約230mm、幅が約260mm、奥行きが約110mmの黒い箱のような装置だ。価格は1台約50万円。
三脚に載せたマーターポートは、ぐるっと1回転して空間を360度撮影する。同時に赤外線センサーで、カメラの周りにある物との距離を測定している。
単に360度の写真が撮れるだけではなく、赤外線センサーで空間内のあらゆる物の寸法を記録しているのだ。だから正確な縮尺の3D空間を、コンピューター上に再現できる。