都内に新しい施設や住宅を建てるとき、計画地の地質や地盤がどうなっているかは気になるところだ。国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)の地質調査総合センターは2021年5月に日本で初めて、東京23区の地下の地質構造を立体的に見られる「3次元地質地盤図~東京23区版~」を完成させ、Webサイトで公開した(https://gbank.gsj.jp/urbangeol/)。
地上からは見ることができない地下世界の構造が判明したとして、特に地質・地盤リスクに関心が高い建築や土木関係者の間で話題になりつつある。東京23区の地下数十メートルまでの地質構造は想像以上に複雑で、これまでの「常識」を覆す新事実も明らかになった。
江戸川区などの江東エリアは、大雨や台風で河川が氾濫すると街が水没する恐れがあると指摘されている地域だ。さらに地下の地質的には埋没谷の上にあり、地震リスクも高いことが分かる。
今回のデジタル活用(デジカツ)で私は、3次元地質地盤図に関わった地質調査総合センター地質情報研究部門情報地質研究グループの中澤努研究グループ長と野々垣進主任研究員に詳しく話を聞くことにした。3次元地質地盤図は、地震ハザードマップの作製や都市インフラ整備の計画立案などに広く利用できる可能性を秘めている。
中澤氏によれば、最大の成果は「東京下町の低地(東京低地)の地下に存在する『沖積(ちゅうせき)層』と呼ばれる軟弱な地層の分布を詳細に描けたことだ」。さらに、一般に地盤が固いといわれてきた(23区の西側に広がる)武蔵野台地の一部にも、「沖積層に似た軟弱な地層が分布していることが判明した」。こうしたエリアは地震リスクが高くなる傾向にある。
この先、東京23区にビルや家をつくったり、古い建物を改修したりするとき、「地下に埋没谷の泥層がないかを3次元地質地盤図で確かめ、あらかじめ知っておくとよい。事前に分かっていないと、後から計画が見直しになったり、地盤改良の予算を確保するのに苦労したりする恐れがある」(中澤氏)。知らずに建ててしまうと、地質リスクを抱え込むことになる。
平面(2次元)の地質図では、地下の地質構造を表現するのは難しい。そこで地質調査総合センターは、23区の合計5万地点ものボーリングデータを、独自開発した3次元地質モデリング技術で解析。約4年がかりで、東京23区の地下地質構造を立体的に可視化した。東京23区の地下には、10の地層が確認されている。
18年には東京23区に先行して、千葉県北部地域の3次元地質地盤図を公開している。そのときの作製ノウハウを東京23区にも生かした。
今後は埼玉県南東部や千葉県中央部、神奈川県東部などで順次、地下の地質構造解析を進めていく。24年までに首都圏の主要エリアをカバーする3Dの地質地盤情報を整備することで、都心部の地震防災などに貢献する。