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 屋根と外壁がガラスで覆われ、梁(はり)などの鉄骨は丸見え。完成したら、いったいどんなふうに見えるのだろうか?

 東京・西新宿にある新宿住友ビルの低層部に2020年7月1日、ガラスの大屋根が目を引く「三角広場」が開業した。約3250m2ある無柱のアトリウムは、最大で約2000人を収容できる巨大空間が特徴だ。天井高は最大で約25m、6階建てのビルに相当する高さである。

 日中はガラス屋根から自然光が差し込み、広場に影を落とす。天井の梁やガラスを囲むフレームの影が床に映り込む。

三角広場の床には昼間、梁やガラスを囲うフレームが影を落とす(写真:日建設計)
三角広場の床には昼間、梁やガラスを囲うフレームが影を落とす(写真:日建設計)
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 完成してみれば、当たり前に思えるこの景色も、設計中は幾つものプランが飛び交い、修正の連続だった。そもそも構造体をあらわにし、これだけ巨大なガラスの屋内空間をつくることはめったにない。基本・実施設計を担当した日建設計は、コンピューター上で何度も完成イメージを練り上げては見直していった。

 それを事業主体であり、基本構想と総合監修を担う住友不動産につどつど見てもらう。ゴーサインをもらえなければ、設計は前に進まない。

 「一切、妥協しない」と宣言していた住友不動産の幹部に納得してもらうには、実施設計と施工を手掛けた大成建設も含めた3社の間で、明確な完成イメージの共有が不可欠だった。

 「実際に広場に立ったとき、三角広場はどう見えるのか?」

 設計が進むにつれて、誰しもそう思うようになった。最大で25mの高さがあるガラス屋根のすぐ下には、大きな白い梁(ロングテーパービーム梁)が何本も並ぶ。

 せっかくガラスの屋根を架けたのに、梁が視界を遮ってしまうことにならないか。構造体の鉄骨を塗装するなら、何色がいいか。こうした疑問をなるべく実空間に近い大きさでイメージを確認し合い、設計の方向性を固めたいというニーズが日増しに高まっていった。

 日建設計の担当者は住友不動産の関係者を連れて、ある場所に向かった。東京・汐留にあるパナソニックの東京汐留ビル内にある「サイバードーム」だ。今回のデジタル活用(デジカツ)はサイバードームでの出来事と、そこに至るまでの話だ。関係者は設計期間中に二度、サイバードームを訪れた。

パナソニックの「サイバードーム」に、三角広場のVR(仮想現実)画像を映した様子。広場に立ったときと近い感覚で、ガラスの屋根や梁などを見上げて確認できる(写真:日建設計)
パナソニックの「サイバードーム」に、三角広場のVR(仮想現実)画像を映した様子。広場に立ったときと近い感覚で、ガラスの屋根や梁などを見上げて確認できる(写真:日建設計)
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 サイバードームには、内径が8.5mの球面ディスプレーがある。映画館のようだ。この施設のメリットは、ゴーグルをかけずにVR(仮想現実)画像を見られること。ドームの中に入れば、全員で同じディスプレーを見ながら意見交換できる。「関係者同士で合意形成や意思決定がしやすかった」(日建設計設計技術センターダイレクター ファサードエンジニアの村上博昭氏)

 私は過去に、サイバードームでVRを体験したことがある。だから、巨大空間の完成イメージを共有するには持ってこいの場所だということは、すぐに理解できた。もっとも、三角広場の取材でサイバードームの話が出てくるとは全く想像しておらず、少々驚いた。

 開業直後に三角広場を訪れた私は日建設計の担当者2人と一緒に、三角広場のガラス屋根を見上げた。確かに、ガラスの手前に細長く白い梁が何本も見える。スパンは約50mあるという。

 25m近い高さにある白い梁は、広場から見上げるとそれほど大きく見えない。しかし、中央部がV字型をしているこの梁は、一番深いところで「デプス(上弦材と下弦材の間隔)」が1.8mもある。下からだと、そんなに幅があるようには思えない。

日建設計の設計担当者2人と白い梁を見上げながら、説明を受ける私(左)。中央がファサードエンジニアの村上博昭氏。梁のデプス(上弦材と下弦材の間隔)は最大で1.8mある。写真の赤色矢印の部分(写真:日経クロステック)
日建設計の設計担当者2人と白い梁を見上げながら、説明を受ける私(左)。中央がファサードエンジニアの村上博昭氏。梁のデプス(上弦材と下弦材の間隔)は最大で1.8mある。写真の赤色矢印の部分(写真:日経クロステック)
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 1.8mのデプスがある梁が何本も天井に並んでいたら、せっかくのガラス屋根が梁で隠れてしまい、外が見えにくくなるのではないか。そう心配になってくる。

 住友不動産が最もこだわったことは、「青空を最大限、見えるようにすること」。梁が邪魔をして青空が見えにくかったら、そのプランはボツになる。

 ちなみに、白く塗装する前の鉄骨梁の写真がこれだ。大人の身長か、それ以上のデプスがある。

三角広場に使われた鉄骨梁。デプスは大人の身長か、それ以上の幅がある。赤色矢印の部分は上の写真と同じ幅だ(写真:日建設計)
三角広場に使われた鉄骨梁。デプスは大人の身長か、それ以上の幅がある。赤色矢印の部分は上の写真と同じ幅だ(写真:日建設計)
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施工時の白い梁を見ても、どれだけ幅が大きいか分かる(写真:日建設計)
施工時の白い梁を見ても、どれだけ幅が大きいか分かる(写真:日建設計)
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 これほど幅がある梁が天井に並ぶのだから、見上げたときのイメージを自分の目で事前に確かめておきたくなるのもうなずける。そこでサイバードームの出番というわけだ。