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 2020年8月、気温が35度を超える猛暑が全国的に続いている。そんな中、お盆休み明けの某日、私は東京・王子にあるマンションにいた。外壁のタイル打診検査を体験するためだ。

 長谷工コーポレーションとアウトソーシングテクノロジー(東京・千代田)は7月6日、マンションの外壁タイル打診検査に使うMR(複合現実)アプリ「AR匠RESIDENCE(エーアールタクミレジデンス)」を共同開発したと発表した。現場の担当者は日本マイクロソフトのMRヘッドマウントディスプレー「HoloLens 2(ホロレンズ 2)」を頭に装着し、AR匠RESIDENCEの仮想画面を見ながら検査を進める。

 結果は全てAR匠RESIDENCEに記録され、それを基に報告書を自動作成できる。これで検査業務を約30%削減できる見通しだという。

 私は発表直後に解説記事を書いたが、これまでHoloLens 2の取材を続けてきたこともあり、自分で実際に試してみたいと思った。長谷工に協力を依頼し、お盆休み明けに体験できることになった。

 もっとも、これほど暑い日にぶつかるとは、7月に日程調整をしてもらったときには想像できなかった。7月は長雨続きで晴れの日が少なく、梅雨がなかなか明けなかったからだ。ところが8月に入ると、状況は激変。連日の猛暑で、体がつらい日々が続く。

 タイル打診検査を体験できるマンションに到着し、冷房が利いた部屋で説明を受けるまではよかったが、廊下に出ると早くも汗がしたたり落ちてくる。HoloLens 2をかぶり、マスクもしていると、頭や顔がすぐ汗まみれになった。

 「現場の担当者は本当に大変だな」

 検査を始める前から早くも、現場の苦労を思い知らされた。この暑さの中、集中力を切らさずにタイルの不具合を見つけて記録していくのは根気が要る作業だ。

 HoloLens 2自体は、過去に体験済みである。基本操作はできるという前提で、検査アプリであるAR匠RESIDENCEの使い方を現場で教えてもらった。

 マンションの廊下に仮想的に表示されるメニュー画面から検査項目を選択し、作業を進める。HoloLens 2でのボタン選択は、指をAR空間上のボタンに差し込むようにして押す。

HoloLens 2をかぶり、タイル打診検査を体験している私。AR表示は指先で操作する。手に持っているのは、検査に使う「タイル打診棒」(写真:日経クロステック)
HoloLens 2をかぶり、タイル打診検査を体験している私。AR表示は指先で操作する。手に持っているのは、検査に使う「タイル打診棒」(写真:日経クロステック)
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 ARの動作ははたから眺めていると、おかしな動きをしている人に見える。それは仕方ない。AR画面は、HoloLens 2をかぶっている人にしか見えないからだ。今回はAR画面を映せるノートパソコンを現場に持ち込んで、他の人にもAR画面が見えるようにしてもらった。

マンションの廊下に仮想表示された検査アプリ「AR匠RESIDENCE」のメニュー画面(資料:長谷工コーポレーション)
マンションの廊下に仮想表示された検査アプリ「AR匠RESIDENCE」のメニュー画面(資料:長谷工コーポレーション)
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 検査を始める前に、タイルの「浮き」や「ひび割れ(クラック)」といった不具合が見つかったとき、ARに記録する手順を練習した。自分の指先がHoloLens 2のセンサーに認識されるので、浮きやひび割れを指さして位置を特定する。

 AR上に見える「×(バツ)印」を不具合の位置に合わせる感じで記録する。×印を固定すると、浮きなら「U」の印がAR上に付く。まるでタイルの上に、本当に印を書き込んでいるかのようだ。

タイルの「浮き」の印を、ARでタイルの上に重ねるように記録・表示したところ(資料:長谷工コーポレーション)
タイルの「浮き」の印を、ARでタイルの上に重ねるように記録・表示したところ(資料:長谷工コーポレーション)
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 印の情報は全て、AR匠RESIDENCEに保存される。同時に、ARの撮影ボタンを押して、不具合の写真も撮る。だから浮きやひび割れの位置を紙の平面図に手書きしなくて済む。カメラを用意して、撮影する必要もない。