「透明なガラスは建物が完成したとき、どんな色合いに見えるのか?」「外から内部がどれほど透けて見えるのか?」「室内はどれくらい明るくなるのか?」
透明・半透明のガラスは光の当たり方次第で、目に映る色味や窓越しに見える屋内の眺めが違ってくるから不思議だ。透明なのに、青みがかって見えたり、白っぽく見えたりする。ガラスの表情は光の移ろいと共に、刻一刻と変化していく。
表面に、反射率や透過率、熱負荷などを変える各種コーティングを施したガラスや色ガラスは、設計者がその色合いを想像するのが一層難しい。設計者はガラスを選ぶ際、外壁とガラスの色の相性や、時間帯や昼夜での見え方の違いなどを事前に確認しておきたくなる。
ガラスを中心とした素材メーカーのAGCは設計者やデザイナーのこうしたニーズに、VR(仮想現実)で応える仕組みを用意している。横浜市にある研究施設の一角に設けた「XRラボ」で、ガラスの見え方を疑似体験できるのだ。
私は最近、東京都渋谷区にできた「透け透けトイレ」の体験取材をしたばかり。ガラスの見え方がちょうど気になっていたところだった。
AGCのXRラボを訪問し、VRを体験させてもらうことにした。私はこれまで数々のVRを体験しているが、考えてみれば、仮想空間で「透明なガラスがどう見えるのか?」を気にしたことがなかった。そのせいか、ゴーグルをかぶって仮想のガラスに集中して見てみると、「なるほど」という気づきが幾つもあった。
現在、AGCは20年末の竣工を目指して、研究所に新棟を建設中だ。私が訪問した20年9月初めには、工事が終盤に差し掛かっていた。その新棟を設計したときの、正面玄関付近の大きなガラスの見え方をシミュレーションした結果をVRで見せてもらった。
まず、建物の正面に取り付ける大量の透明ガラスを昼間の設定で眺めてみると、全体的に深い青色に見えた。透明には見えない。光の加減で青く見えている。
VRを推進する、AGC先端基盤研究所共通基盤技術部評価科学チームの小林光吉マネージャーが、「奥のほうのガラスを見てほしい」と言う。下の画面で、赤い丸印をつけた辺りだ。
全体的に青みがかって見えているガラスが、奥のほうだけは白っぽく見えるのを確認できる。それは建物の前に空が大きく開けており、ガラスに映り込んで光の反射が大きくなっているからだという。ガラスは光の反射率の変化で、色の見た目が微妙に異なってくる。
他にも、違うタイプのガラスを使用したときの比較が、VRなら簡単にできる。
このVRのみそは、場所ごとに当たる光が異なることで生じる反射率の違いを瞬時に計算できる光学シミュレーションの結果を反映し、VR画像を動的に生成していることである。ガラスメーカーならではだ。しかもこうした光学シミュレーションソフトを、AGCは自社開発している。
小林マネージャーは「光学シミュレーションを外注していたら、顧客対応が遅くなる。だから自社開発にこだわってきた」と明かす。素材メーカーのAGCに、こうしたソフト開発者がいるのは少々驚きである。