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高密度の先にある「高効率Wi-Fi」

 話はそれるが、私が数万人規模のWi-Fi接続にこだわる個人的な理由を述べたい。

 私は2019年の年明けを、約1万2000人を収容する横浜アリーナで迎えた。人気歌手グループであるPerfume(パフューム)のカウントダウンライブの裏側に潜入。年が明けた2019年1月1日、会場にいたPerfumeのファンクラブ会員しか体験できない特別なイベントを目の当たりにしていた。

 このときは「高効率Wi-Fi」と呼ばれる、これまでにないWi-Fiを、1万人規模の実環境で初めてトライした記念すべき日でもあった(メンバーの1人であるのっちは会場で、高効率Wi-Fiのことを「とにかくすごいWi-Fi」と呼んでいた)。

 NTTグループでは高密度Wi-Fiと高効率Wi-Fiを区別して呼び分けているようだ。新国立競技場に採用が決まったのは高密度Wi-Fiであって、横浜アリーナでのPerfumeカウントダウンライブで用意された高効率Wi-Fiではない。名称が似ているので間違いやすいが、別のものである。誤解を恐れずにおおまかにいうとすれば、高密度Wi-Fiの先に高効率Wi-Fiがあると考えてもらっていいだろう。

 私は2019年の始まりを、高効率Wi-Fiを使った特別なイベントの熱狂の真っただ中で迎えた。そのため、2020年の東京五輪にも高効率Wi-Fiが登場することをひそかに期待していた。

 しかし、技術検証が間に合わなかったのか、それともコストの問題か、はたまた別な理由かは分からないが、新国立競技場では高効率Wi-Fiは採用されなかった。新国立競技場は高効率ではなく、高密度だという事実を2019年6月にNTTの澤田純社長が語ったとき、私は正直がっかりした。

 新国立競技場の高密度Wi-Fiは、スタジアムに集まる6万人規模の観客にWi-Fi環境を提供するための仕組みだ。一方、高効率Wi-Fiは同じ会場内にいる人たちがスマホなどから一斉に同時接続してくることを想定したWi-Fi環境を構築し、何らかのイベントなどを実施するための一種のシステムといえる。

 カウントダウンライブでいえば、会場にいる1万人を超えるファンにスマホで同時にアンケートに答えてもらう。その結果をステージの巨大スクリーンに瞬時に映し出すという使い方をした。

 Perfumeの3人からの呼びかけにファンが応じたアンケートの集計と表示が目的なので、1万2000人のWi-Fi同時接続に対応できなければ意味がない。しかも結果を集計したり、会場の1席1席単位で結果をスクリーンの座席マップに表示したりすることまでやっていた。

 高効率Wi-Fiは数万人規模の同時接続に対応したうえで、そこで何かを処理したり配信したりといった利用目的が明確になって初めて、導入が決断される。近い将来、Wi-Fiの同時接続を使った画期的なサービスが見えてくれば、高効率Wi-Fiがお目見えする日がやってくるかもしれない(もちろんそれには、カウントダウンライブで明らかになった幾つかの技術的な課題を克服する必要がある)。

 なお、5G(次世代通信規格)の全面普及は、東京五輪には間に合いそうにない。5Gの商用サービスが始まっても、しばらくは地域限定かもしれないし、対応する端末がやたら高額で買い替えにくい状態が続くことが予想される。

 5Gが一般化すれば、Wi-Fiそのものが要らなくなるという説もあるが、それは当分先の話だ。Wi-Fiと5Gが共存する期間はかなり長くなる可能性が高いと考えて間違いないだろう。