「2022年8月1日付で辞令が出まして、『AI設計部長』が3人、建築(意匠)と構造、設備の各設計部署に1人ずつ配属になりました。それぞれキャラクターも異なり、面白いです。話を聞きにきませんか」
大成建設の広報担当者から私は同年8月下旬、不思議なお誘いのメールをもらった。「AI設計部長に会えるの?」。私は二つ返事で、東京・新宿にある大成建設本社にお邪魔することにした。
こんなお声がけをいただけるとは、デジタル活用(デジカツ)のコラムを丸3年続けてきてよかった。AI設計部長が取材を受けるのは初めてのことらしく、最初に指名されて光栄である。
私にメールが来たのは、大成建設が21年3月にAI設計部長の構想を発表したときに記事を書いたからだろう。あれから約1年半が過ぎ、いよいよ「部長」として現場配属になったということだ。設計本部長から部員に対して直々に、辞令が出たことが伝えられたという。
私はAI設計部長がどんな姿をしているのか気になった。Pepper(ペッパーくん)みたいな人型ロボットが会議室で私を待っていたら、面食らうかもしれない。とにかく会ってみることにした。
9月某日。本社の会議室で私を迎えてくれたのは、2人の男性だった。年の差がありそうな2人は、3人いるというAI設計部長のうちの2人なのだろうか。さすがにそれはないはずだ。
聞けば、2人は、建築担当のAI設計部長と構造担当のAI設計部長の「秘書兼かばん持ち」のような存在だという。ちなみに設備担当のAI設計部長をサポートする秘書は、遠隔から会議に参加するとのことで部屋にはいなかった。
では、肝心のAI設計部長はどこにいるのか。3人そろって、プロジェクターの画面に現れた。顔にAIと書いてある。胸にはAIの名札。どうやらこのバーチャルキャラクターがAI設計部長のようだ。
まずは名刺交換とばかりに、名刺の画像が映し出された。名前の欄に「AI設計部長」と書かれている。肩書が名前になっていて、笑えた。
ちょっとふざけた書き出しになったが、大成建設は真剣である。若手の設計者などに、AI設計部長が建築、構造、設備の設計に対して適切なアドバイスをしてくれる。そのシステムを「設計部長」に例え、運用を開始したところだ。設計者の働き方改革の一環で、設計時の見落としなどに起因する手戻りを減らし、生産性を高めるのがAI設計部長のミッションである。
大成建設が蓄積してきた膨大な「設計技術データベース」とひも付いたAI設計部長は、設計者が調べたいことや悩みの解決に最適と思われる過去の資料をサッと提示してくれる。まるで机の引き出しから、「これを読んでおけ」とマル秘の資料を取り出すかのように。
設計者には、自分が知りたいことをキーワードで入力してもらう。AI設計部長は寡黙でしゃべらないが、仕事は早い。建築領域だとおよそ5年分、約4万5000件の基本設計や実施設計の資料から、役立ちそうなものを選別してパソコン画面に表示してくれる。AIによるレコメンドだ。
「資料を探す手間が省ける」と、まずは設計者から好意的に受け入れられている。設計者が入力したキーワードに従って、AIが似たプロジェクトの資料を探してきてくれる。
特に「DR(デザインレビュー)」と呼ばれる設計時の検討資料は、大成建設のノウハウの固まりだ。非常に細かい内容まで記載されており、自分で探すのは大変である。それをAI設計部長が代わりに見つけてくれる。
AI設計部長の利用者は、建築と構造、設備で合計1200人ほどいる。ひとまずAI設計部長は、設計者の心をつかんだようだ。もちろん、AI設計部長は設計者とのやり取りから学んでいき、的確な助言ができるようにならないと解任されかねない。