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 埼玉県所沢市に突如出現した巨大な石の塊。これはいったい何なのか。地元の人たちはその姿を初めて目にしたとき、相当驚いたに違いない。

2020年1月に外周の足場の一部が解体され、姿を現した石の建築。建物は新型コロナウイルスの影響をぎりぎり免れ、同年4月に完成した(写真:鹿島)
2020年1月に外周の足場の一部が解体され、姿を現した石の建築。建物は新型コロナウイルスの影響をぎりぎり免れ、同年4月に完成した(写真:鹿島)
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 まるで石造りの要塞のようだ。圧倒的な迫力と存在感がある。おまけに外から見ると、この建築物が何階建てなのか分からない。内部も想像できない。謎多き建築だ。

石の要塞がそびえ立っているように見える(写真:日経クロステック)
石の要塞がそびえ立っているように見える(写真:日経クロステック)
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 この石の建築は、角川文化振興財団が建てた「角川武蔵野ミュージアム」である。そう、美術館だ。JR東所沢駅から徒歩10分ほどの場所に新設された「ところざわサクラタウン」の一角に立つ。

 岩が地盤から隆起して出来たような石の建築を考案したのは、建築家の隈研吾氏。隈研吾建築都市設計事務所がデザイン監修を務めている。角川武蔵野ミュージアムは、大小様々な施設をつくってきた隈氏にとっても、相当思い入れがある建築だという。

 「私にとって、木の建築の集大成が国立競技場なら、石の建築の集大成が角川武蔵野ミュージアムだ。2つの巨大プロジェクトがほぼ同時に進み、2019年と2020年にそれぞれ完成したことは非常に感慨深い」

 20年7月中旬に私が隈事務所を訪れたとき、隈氏はそう語っていた。

 20年8月1日にプレオープンを迎えた角川武蔵野ミュージアムの最初の企画展である「隈研吾/大地とつながるアート空間の誕生 石と木の超建築」の会場では、隈氏の映像が繰り返し流れていた。そこでも隈氏は同様のコメントを述べている。

「角川武蔵野ミュージアム」の最初の展覧会になった「隈研吾/大地とつながるアート空間の誕生 石と木の超建築」(写真:日経クロステック)
「角川武蔵野ミュージアム」の最初の展覧会になった「隈研吾/大地とつながるアート空間の誕生 石と木の超建築」(写真:日経クロステック)
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 角川武蔵野ミュージアムは離れた場所から眺めると、一枚岩のように見える。しかも表面は、ツルツルした印象を受ける。

 ところが近づいてみると、全く違うことに気づく。荒々しい岩肌がむき出しになっている。「割肌(われはだ)」と呼ばれる、職人が石を割り出したときの状態をそのまま見せる仕上げだ。石には白い筋が入っており、割肌と相まって激しく波打っているように見える。

「割肌(われはだ)」という荒々しい仕上げの石板を外壁に使用している(写真:日経クロステック)
「割肌(われはだ)」という荒々しい仕上げの石板を外壁に使用している(写真:日経クロステック)
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 一枚岩のように見えた建物の外観は、何枚もの石の板材を張り合わせて構成されているのが分かる。その数、約2万枚。石板は幅70cm、高さ50cmの長方形を基本としているが、建物全体が非常に複雑な形をしているため、全てが長方形をしているわけではない。三角形や台形をした石板も数多くある。

石板は長方形だけでなく、台形や三角形をしているものもある。石のパズルのようだ。赤い丸の部分は、後述する「合計79カ所の頂点」の1つ(写真:日経クロステック)
石板は長方形だけでなく、台形や三角形をしているものもある。石のパズルのようだ。赤い丸の部分は、後述する「合計79カ所の頂点」の1つ(写真:日経クロステック)
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 この建物は外壁に、石板を張り詰めたものだった。そうなると「石板の内側はどうなっているのか」と気になってくる。

 前置きが長くなったが、今回のデジタル活用(デジカツ)は、ここからが本題だ。ジグソーパズルのピースを1枚1枚はめていくような石の建築は、どのようにしてつくられているのだろうか。隈氏のデザインを受けて、建物の設計・施工を担当した鹿島に、石板の内側に隠れた建築の秘密を尋ねてみることにした。かなり難易度が高いデジカツが、裏側で実行されている予感がしていた。

 私は20年9月末、鹿島が角川武蔵野ミュージアムの近くに借りている仮設事務所を訪れた。ちょうど事務所を閉める日で、担当者は後片付けに追われていた。そんな中、既に次の仕事場に移っていた当時の工事課長が、取材対応のために事務所に駆け付けてくれた。鹿島の山口悠樹氏だ。ミュージアム工区の施工管理全般を担当していた。

 山口氏が早速見せてくれた角川武蔵野ミュージアムのBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)画面は、私の想像をはるかに超える複雑さだった。鉄骨は1本1本、長さや太さ、角度が異なる。直方体のビルをつくるのとは、訳が違う。

鹿島の山口悠樹氏(右)から構造の説明を受ける私。複雑に組み合わされた無数の鉄骨にまず驚いた(写真:日経クロステック)
鹿島の山口悠樹氏(右)から構造の説明を受ける私。複雑に組み合わされた無数の鉄骨にまず驚いた(写真:日経クロステック)
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 なぜこれほど複雑に鉄骨が組み合わされているのか。それはこの石の建築が、鹿島が経験したことのない多面体をしているからだ。この多面体を「解く」には、3D設計が不可欠だった。