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 角川文化振興財団が埼玉県所沢市に建設した美術館「角川武蔵野ミュージアム」は、石の塊のような施設である。縦のスリットを除けば、建物には窓もない。堅牢な石造りの要塞のようだ。

 8月に先行開業したミュージアムは、JR東所沢駅から徒歩10分ほどの敷地にオープンする「ところざわサクラタウン」の一角を占める。約36mの高さがある「巨大な岩」は、圧倒的な存在感を放っている。

石の要塞のようにそびえ立つ「角川武蔵野ミュージアム」(写真:日経クロステック)
石の要塞のようにそびえ立つ「角川武蔵野ミュージアム」(写真:日経クロステック)
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 この石の建築は、隈研吾建築都市設計事務所がデザイン監修を務めた。建築家の隈研吾氏は角川武蔵野ミュージアムを、「私が手掛けた石の建築の集大成」と語っている。

 石の塊に見える角川武蔵野ミュージアムは、実は建物の外壁に約2万枚の石板を張り付けて出来ている。しかも外壁は61面の三角形の組み合わせで構成されており、複雑な多面体をしている。

 三角形一つひとつを幅70cm、高さ50cmの石板に分割して、外壁を施工する。石板の多くは長方形をしているが、中には台形や三角形をしているものもある。なお、石板の大きさは、人が運べる重さを基準に決めた。

石の外壁は、61面の三角形の組み合わせで構成している。赤い印はそのうちの1つを本誌が縁取りしたもの(写真:日経クロステック)
石の外壁は、61面の三角形の組み合わせで構成している。赤い印はそのうちの1つを本誌が縁取りしたもの(写真:日経クロステック)
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 今回のデジタル活用(デジカツ)は、石板の張り付けに焦点を当てる。2万枚もの石板を、設計・施工を担当した鹿島はどうやって正確に張り付けていったのか。

 そこには、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)による正確な位置決めと現場での位置出し、そして職人によるミリ単位での張り付け作業があった。施工精度の高さは「職人をいかに迷わせないか」にかかっていると言っていい。

外壁の表面をBIMで確認しているところ。表面の位置が設計・施工の全ての起点になる。右奥が鹿島の山口悠樹工事課長(施工当時)。ミュージアム工区の施工管理全般を担当していた(写真:日経クロステック)
外壁の表面をBIMで確認しているところ。表面の位置が設計・施工の全ての起点になる。右奥が鹿島の山口悠樹工事課長(施工当時)。ミュージアム工区の施工管理全般を担当していた(写真:日経クロステック)
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 施工の順番を確認しておこう。鉄骨鉄筋コンクリート(SRC)造の躯体(くたい)をつくり、周りに石板を固定するための鉄の下地を設ける。これを「胴縁(どうぶち)」と呼ぶ。

外壁の施工状態。左から躯体(土台)、胴縁(下地)、石板(表面)の順になる(写真:鹿島)
外壁の施工状態。左から躯体(土台)、胴縁(下地)、石板(表面)の順になる(写真:鹿島)
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 鉄骨と鉄筋にコンクリートを流してつくる躯体(土台)の周囲に胴縁を設けるため、「インサート」と呼ばれる取り付け金具を約1万本、躯体に差し込む。するとサボテンのとげが躯体から生えているような感じになる。インサート金具の位置と数は、BIMで管理している。

石板を固定する胴縁を躯体の周りにつくるのに必要な「インサート金具」の位置を入力(写真:日経クロステック)
石板を固定する胴縁を躯体の周りにつくるのに必要な「インサート金具」の位置を入力(写真:日経クロステック)
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躯体に取り付けた「インサート金具」(写真:鹿島)
躯体に取り付けた「インサート金具」(写真:鹿島)
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