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 「この家はこれから2階部分をつくります」「こっちは基礎工事の途中ですね」「今日はどの現場も雨だなあ」──

 2020年10月初旬、私は大和ハウス工業の東京本社を訪れた。ここには、同社が10月1日に開設したばかりの、施工現場の遠隔管理施設「スマートコントロールセンター」がある。早速、見学させてもらった。

 ガラス張りのスマートコントロールセンターは、想像していた通りの部屋だった。壁には巨大なディスプレーが8台並ぶ。そこには建設途中の住宅の映像が映し出されている。そう、ここは施工現場を見守る仕組みの「心臓部」だ。

 東京本社技術本部建設デジタル推進部DC推進2グループの林健人グループ長ら4人が、私を出迎えてくれた。訪れたときはちょうど、戸建て住宅の施工現場が表示されていた。各現場にはカメラがあり、映像はいつでも切り替えられる。

東京本社にある「スマートコントロールセンター」で、施工現場に設置したカメラの映像を見せてもらった。作業の進捗がよく分かる(写真:日経クロステック)
東京本社にある「スマートコントロールセンター」で、施工現場に設置したカメラの映像を見せてもらった。作業の進捗がよく分かる(写真:日経クロステック)
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 施工現場にあるカメラは、主に2種類。固定カメラとウエアラブルカメラだ。確認したいことに応じて、使い分けている。定点観測は前者、特定の場所を一時的に見たいなら後者。ウエアラブルカメラは、現場担当者が胸ポケットなどに取り付けて、移動しながらピンポイントで撮影する。

 どちらのカメラも、大和ハウスの施工現場監督者の「目」の代わりになる。現場監督者の一番大事な仕事は、現場の安全や職人の健康を守ることだ。危険な場所や物などがないか、常に目を光らせている。

 危険な状態になっていないかをチェックしながら、同時に現場の作業進捗を見て回る。遅れが出ていれば、早期に手を打つ必要がある。

 ただし、現場監督者は複数箇所を掛け持ちしているのが普通だ。直接足を運べる回数や滞在時間は、どうしても限られてしまう。毎日同じ施工現場に通うことはできない。

 人手不足の中、施工現場の管理を今後どのように進めていくか。大和ハウスは試行錯誤を繰り返してきた。そして行き着いたのが、スマートコントロールセンターによる集中管理だ。システム構築では、NECと協業している。

外から中が見えるようになっている、東京本社のスマートコントロールセンター(写真:日経クロステック)
外から中が見えるようになっている、東京本社のスマートコントロールセンター(写真:日経クロステック)
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 カメラが捉えた施工現場の映像を見れば、今行われている作業をほぼリアルタイムで確認できる。写真とは違い、映像は作業の流れが途切れることがないし、過去にさかのぼって通しで見返すこともできる。プロセス全体を見通せるのが映像の強みだ。

 施工現場には様々な人が出入りしている。工程ごとに、担当する職人や会社が違うからだ。建材や仮設材の搬入・搬出も頻繁に発生する。

 するとヘルメットをかぶり忘れていたり、前工程の作業が終わるのを見に来ては帰っていくといった無駄な動きをしている人がいたりと、「安全や作業効率の改善点が浮き彫りになりやすいことが分かった」(林グループ長)