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 今、建設現場の無線LAN整備が熱い。現場でも各自のスマートフォンやタブレットがWi-Fiにつながらないと、不便極まりないからだ。今回のデジタル活用(デジカツ)は、建設現場における無線LAN環境の構築の話をしたい。

 私が取材に訪れたのは、これまたホットな場所である。JR東京駅に隣接し、日本一の超高層ビルが立つ予定の「東京駅前常盤橋プロジェクト」の建設現場だ。事業者は三菱地所。2020年9月に、街区名が「TOKYO TORCH(トウキョウ トーチ)」に決まったばかりである。

 街区で最も高いB棟は「Torch Tower(トーチタワー)」と名付けられた。高さは約390m。27年度の竣工を計画している。そして隣には、21年6月末に竣工予定のA棟が先に立つ。こちらは「常盤橋タワー」に名称が決定した。

 高さが約212mあるA棟は既に上棟していて、見上げると外観はほぼ完成している。現在は内装工事が進行中だ。A棟の施工を担当しているのは、戸田建設。その現場に、私は立ち入りを許された。訪れた20年10月初旬の某日は強い雨が降っていて冷え込んでもいたが、胸は非常にワクワクしていた。

A棟(常盤橋タワー)の外観は、おおむね完成している。地下5階・地上38階建てで、高さは約212m。左奥の方向に東京駅がある(写真:日経クロステック)
A棟(常盤橋タワー)の外観は、おおむね完成している。地下5階・地上38階建てで、高さは約212m。左奥の方向に東京駅がある(写真:日経クロステック)
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 戸田建設は古野電気、PicoCELA(ピコセラ、東京・中央)と共同で、超高層ビルの建設現場で広く無線LANが使えるシステムを開発した。それを生で見るのが、今回の目的である。建材が所狭しと置かれた大きな建設現場の敷地を抜け、A棟内にある階段室に案内された。

 なぜ階段かといえば、今回の無線LANシステムは建設現場ではおなじみの単管パイプ(中空の金属管)をつないで構成しており、地下から高層階まで縦方向に単管パイプを通すのに、階段室の手すり周りにある隙間はうってつけの場所だからだ。

 とはいえ、A棟は38階まである。階段に案内されたときは「38階まで歩いて上るの?」と、ちょっと心配になったが、さすがにそれはなかった。3階に向かう階段の途中で立ち止まり、この日のお目当ての機器と初対面した。通る人の邪魔にならず、建設現場の風景に溶け込んでいる。意識して見ないと、見落としそうである。

 この機器は、上下に単管パイプを接続した、垂直設置型の「アンテナユニット」である。斜めに切れ込みが入っており、ここから無線LANの電波を吹く。アンテナユニットは無線LANを利用したい全てのフロアに必要になる。電源やLAN接続は不要である。

上と下に単管パイプをつなげた「アンテナユニット」(赤色で囲んだ機器)。白い矢印で示した通り、アンテナユニットには斜めの切れ込みが入っており、ここから電波を吹く(写真:日経クロステック)
上と下に単管パイプをつなげた「アンテナユニット」(赤色で囲んだ機器)。白い矢印で示した通り、アンテナユニットには斜めの切れ込みが入っており、ここから電波を吹く(写真:日経クロステック)
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アンテナユニットと単管パイプを接続して構成する。単管パイプが電波を送る「導波管」になっている(資料:古野電気)
アンテナユニットと単管パイプを接続して構成する。単管パイプが電波を送る「導波管」になっている(資料:古野電気)
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 私が3階に通されたのは、ここに現場担当者が休憩や打ち合わせなどに使う大きな仮設スペースがあるから。テーブルといすが並んでおり、部屋はWi-Fi完備だ。スマホやタブレットを高速でサクサク使えるようになっている。通信スピードが速ければ、図面のようなを大容量ファイルを閲覧したり、現場の写真データをやり取りしたりしやすい。

 この部屋の片隅にあるのが、いわゆるWi-Fiのアクセスポイント(AP)である。APの白いボックスは、PicoCELA製の通信機器だ。

 そしてオレンジ色のボックスは、建設現場に電気を供給する分電盤である。これがAPの電源になっている。このAPにLANケーブル接続は必要ないが、電源は不可欠である。

休憩スペースにあるWi-Fiのアクセスポイント。右の白いボックスが通信機器で、オレンジ色のボックスは電気を供給する分電盤(写真:日経クロステック)
休憩スペースにあるWi-Fiのアクセスポイント。右の白いボックスが通信機器で、オレンジ色のボックスは電気を供給する分電盤(写真:日経クロステック)
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オレンジ色のボックスを開けた様子。分電盤が入っている(写真:日経クロステック)
オレンジ色のボックスを開けた様子。分電盤が入っている(写真:日経クロステック)
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